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プジョー2008の印象


プジョー2008に試乗した印象です。使い勝手のよさが目立つクルマですが、とくにインテリアのデザインに目をひかれました。

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208をベースに、都会的なSUV風仕立てにしたのが2008。プレス資料の冒頭には、「機能的でスタイリッシュな、コンパクト・アーバンクロスオーバー」と書かれていますが、まさにそのとおりのクルマです。
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【走りの印象】
まず簡単に、乗った印象から。2月の試乗会時の印象で、ベースが共通の208などもそのとき乗っています。
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2008は208とホイールベースが同じで、全長だけ長くして、ワゴンに近いボディに仕立てています。エンジンは3気筒1.2リッターで、208と基本的に共通。駆動もSUV風仕立てでありながら、4WDはなくFWDのみです。
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直前に、しなやかさの際立つ208に乗ったせいもありそうですが、乗り心地は208と比べて少し硬めに感じました。それが、クロスーバーゆえのセッティングのためなのか、それとも208と比べて100kg弱重いボディのせいなのか、わかりませんが、スピードがのったときや、きびきび走るときに、快適なのではないかと思います。
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新しいETG5トランスミッションは、MTのクラッチ操作を自動で行なう、ロボタイズド・トランスミッションです。オートマチック的に乗ると、アイドリングストップもあるために発進時に一瞬反応がもたついたり、ときにギアチェンジにためがあるなど、もどかしく思うこともありました。長く乗れば、ある程度こつをつかんで対処が可能とも思いますが、基本的には、フランス人のように、マニュアル的に積極的にシフト操作していくのが、このトランスミッションの推奨すべき乗り方のようです。メーカーの説明では、「5速オートモード付きマニュアルトランスミッション」、という言葉も使っていました。マニュアルモードを選んだ場合、パドルシフトでの操作もでき、快活に走れます。アクティブにきびきびと乗るのがこのクルマの流儀かもしれません。

【外観デザイン】

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さてデザインです。208がベースで、前後オーバーハングを伸ばしていますが、顔つきは208の面影を残しています。ライトのデザインが軽妙でユニークです。ルーフレール、フロントのアンダーガードなどで、クロスオーバーらしさを演出しています。
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全体にデザインは質が高い印象です。同国のライバル、ルノーのキャプチャーは、ボリューム感があり、現代的な感じをうまく出しているようですが、2008は、装飾を多用しているところなどが、クラシカルに感じます。それでいて、スマートで都会的でもあり、モダンです。総じていえば、非常にフランスっぽいという印象です。

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リアのランプも特徴的です。アンダーガードはリアにも付きます。写真ではわかりにくいですが、サイドのプレスラインなどは、SUV的なたくましさを適度に表現しています。

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横から見ても、整っています。外観デザインで目に付くのは、ルーフラインです。Bピラーから後方が、ルーフが高くなっています。ただ、実はこれには、機能的な意味はなく、室内高は高くなっていません。

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上から見るとこうなっています。ルーフの両サイドが盛り上がっているだけで、つまりこのルーフラインは、横から見たデザインのためだけに、やっています。コストなどを考えると、にわかには腑に落ちないものがあり、この構造を機能的に活かすモデルが、実はあとから追加されるのか?、などと、うがって考えてしまいますが、プジョーの人に聞いても、デザインのためです、と胸をはった答しか返って来ません。

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このように、ルーフ後端を高くするのは、SUV的な演出のためのデザインと思います。ただ、「SUV的」ということならば、質実剛健に機能的な理由があってほしいと思うわけです。サイドウィンドウの上部に追加された部分が、光もののメッキ仕上げというのも、「SUV」としてはいまひとつ腑に落ちないところです。本来ならそこは、ガラスにすべき部分ですが、せめてつや消しシルバーなどにしてはどうかとも思います。ちなみに、メーカーでは、このルーフの段差のデザインを、RCZにインスパイアされたもの、といっています。
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クロム仕上げを多用した2008は、都会的、パリ的、女性的、な感じに見えます。結局のところ2008は、都会的でスタイリッシュなクロスオーバー車であり、それを率直にフランス流につくったということのようです。最近のコンパクトクロスオーバーの傾向ともいえそうですが、一種のスペシャルティカー的な要素があるようです。
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ちなみにこの後席ドアの上部にもう一段「窓」があるデザインは、フランス車では、1980年頃に生産されていた、マトラ・シムカ・ランチョが思い出されます。シムカ(タルボ)は、その当時プジョー傘下にあったので、2008は、そのランチョのイメージを借りたのか、と類推したくなります。ためしにフランスの記事を調べてみると、やはりランチョを想起させる、という記述がちらほらあるようです。

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これが、ランチョです。ベースはハッチバック車のシムカ1100で、駆動はそのFWDをそのまま活かし、上屋だけをSUVというかRV風にしたものだったので、208から仕立てた2008と成り立ちは似ています。余談ながら、ランチョは、映画「ラ・ブーム」シリーズで、主役ソフィー・マルソーの家で乗られていました。"アイドル映画"で使われるような、ちょっとトレンドものっぽいところのあるクルマだったといえそうです。上の広報写真を見ても、「スタイリッシュ」であることを売りにしているのがわかります。しかしルーフレールの入り方なども、2008にちょっと似ています。
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マトラは、プラスチックボディのスペシャリストで、それを活かしてシムカ・ベースで特別ボディを架装しています。なのでこの特徴的なルーフ形状の採用には合理的理由があったわけですが、2008はふつうの鉄ボディですから、無理をしているとは思います。しかしこの30年以上前のランチョは、クロスオーバーのまさに走りだったわけで、トレンドの先端を行っていたと言えなくもありません。フランスのデザイナーには、かつてこのクルマが気になったことのある人がけっこういるのかもしれません。


【内装デザイン】
ルーフに関しては、素直に納得できにくいものがありましたが、いっぽう、内装は21世紀プジョーの本領発揮という感じで、第一印象で感嘆しました。

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リアは208に比べてオーバーハングを伸ばしており、ラゲッジスペースは充実しています。シートバックは2分割で倒せますが、背面には補強もされています。SUV的でもあるし、道具としてクルマを使うということで、フランス車らしいとも思えます。最近の小型クロスオーバーは、クーペ風ルーフにしたスタイル重視派も目立ちますが、2008は悪路走破性はほとんど特別なところがないかわりに、実用性だけは充実させています。プレス資料の中には「2008最大の特徴はその積載能力にあります」と書かれていました。

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荷物がガンガン積めるいっぽう、内装はシックです。このシートは、上級グレードの「Ciero」のものですが、後席は広く視界も良好です。

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前席ですが、写真の色が上と違って見えますが、同じ「Ciero」です。アルカンタラが主で、サイドなどにテップレザーと称する合成皮革を使っています。

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これは、よりベーシックなグレードの、「Premium」のシート。こちらも、織のパターンがしゃれて見えます。

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コックピットのデザインは、基本的には 208 と同じでありながら、色使いなどを変えて、より特別感を演出しています。メーターが青なのが目に付きます。これは「Ciero」です。

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これは、「Premium」。どちらも茶色が基調ですが・・・。

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「Ciero」の場合、エアコン吹き出し口の枠が、金属調のブラウンに着色されています。この枠は208も同様ですが、ちょっとおもしろいデザインです。ダッシュパネルは、この「Ciero」では、なめし革のようなテップレザーで、無地になります。

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とくに目に付くのは、センターのパネル部分で、ブラウンとブラックのストライプになります。高級チョコレート専門店の包装紙(?)、とでもいうような印象で、なにやらパリらしさを醸し出しています。クロスオーバーにしておくのが、もったいないというか、そもそもクロスオーバーの伝統にとらわれていません(クロスオーバーに伝統はないですが)。

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「Premium」の場合、ダッシュパネルはこのようになります。エアコン吹き出し口は、208と同じようにシルバーのままですが、ダッシュパネルに装飾パターンが施されています。

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アップで見るとこうなります。これも、高級チョコレート店の壁紙、といいたくなる印象です。

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ドアノブ部分は、このようになっています。メビウスの輪のようなねじれのデザインは、208と共通です。これは「Premium」。

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「Ciero」のドアノブは、こうなります。たとえば、ルイ・ヴィトン、ゴディバ、フォション、などの店内に、この部分が備品として置かれていたとしても、違和感なさそうです。とにかくシックで、フランス的です(ゴディバはベルギーですが)。

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メーターも、基本は208と同様で、小径ハンドルの上から見るタイプです。メーターまわりのブルーが、またエレガントです。

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"ブルーライト"は、各所に使われています。これは「Ciero」の天井で、ガラスルーフが標準装着ですが、そのライニング部分がライト点灯時に青く光ります。

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「Premium」の場合、ガラスルーフが付くかわりに、しゃれた照明のデザインが天井に施されており、ライト点灯時にこのように灯ります。

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明るく照らすと、模様はこのとおりです。


2008は、とくに、内装のシックでモダンな仕立てに目をみはりました。クルマでこういうのもありなのか、と思わされます。この内装から考えると、ルーフサイドの窓上部がメッキ仕上げというのも納得できます。
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クロスオーバーとはいっても、そもそも乗用車とSUVの中間的なクルマ、などという発想ではなく、まったく2008独自の世界で、クルマをつくりあげてしまっています。クロスオーバーとはフュージョンだから、新ジャンル仕立てのクルマが多くあり、今流行のコンパクトクロスオーバーでも、少し高級に仕立てたクルマがいくつかあります。たとえばホンダのヴェゼルなども、内装を積極的に仕立てています。しかし2008の演出はそれより数段上という感じです。高級品の一流国フランスが、そのセンスを可能なかぎり発揮させている感じです。価格が高いわけではなく、本革も使っていませんが、とにかくフランスでしかできないセンスが発揮されています。
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2008は、思いきり都会派の仕立てです。これは趣味の問題でもあるので、2008の仕立てにノーサンキューという人もいるはずです。ただ、実質としては、208の荷物室を拡大したセミワゴンタイプのハッチバック車という成り立ちで、実用性に優れています。「荷物を多く積んだり、アクティブにきびきび走りまわる都会派」に、胸をはってアピールできるクルマです。
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2008はSUV仕立てといっても、その雰囲気は質実剛健の反対で、むしろ"軟派"です。しかしプジョーはこの2008で2015年からダカールラリーへの参戦を表明しています。そのマシンは中身は2008と別物とは思いますが、PSAグループはレース参戦を決めた場合、そのカテゴリーで結果を出す確率が高いので、2008も砂漠の王者になる可能性が出てきました。本国の2008には、蛍光カラーを配した特別モデルなども存在するようですが、内装の素材などを変えさえすれば、スポーティー仕立てにしたモデルも、すぐにできそうな気がします。なかなか侮りがたいクルマのようです。


(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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