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プジョー208GTi、XYに試乗


プジョー・シトロエン・ジャポン株式会社は、7月1日に208GTiと208XYを発売していますが、それにともなって行なわれた試乗会に参加しました。先に発売されている208Allureの試乗の印象と合わせて、報告します。

(7月6日 神奈川県・箱根)

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試乗会場の箱根は、当日は濃い霧が出て、クルマのポテンシャルを十分体験できるコンディションではありませんでした。写真は、手前がGTi、奥の2台がXY。
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GTiはスポーティーモデル、XVは活発に走るシックなプレミアムモデル、という性格です。それぞれの仕立てが充実しており、208は基本的には大衆的なコンパクトカーですが、この2モデルは、プレミアムカーといってもよいクルマと思います。
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○208について○
208は2012年に登場。プジョーの屋台骨ともいえるBセグメントのコンパクトカーです。先代の207よりも、少し外寸をダウンサイズ化し、軽量化したのがトピックスです。またデザイン面でも、フランスらしいきらびやかな感じが盛り込まれたのが、新しい傾向と思われます。207よりさらにひとつ前の、約600万台の生産を記録している成功モデル、206を彷彿とさせる、ひきしまったボディにしていますが、比較的地味めだった206よりはデザインに華を与えています。
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○GTi○
今回加わったGTiは、206よりさらにまた前の、1980年代の205のときに一世を風靡した大成功作、「GTi」を復活したものです。200psの1.6リッター直噴ターボ・エンジンを載せ、内外装を「GTi」らしいスポーティーな仕立てにしています。
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○XY○
XYは、紫をテーマカラーにしたシックな内外装の仕立てが特徴です。車体の基本構成はGTiと共通部分が多く、GTiよりは馬力は控えめな設定ながら、ベースは同じ1.6リッター直噴ターボを搭載し、走りも情熱的に仕立てられています。
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○Allure○
Allure(アリュール)は、3気筒1.2リッター・エンジンを積むベーシックモデルですが、上2車と同様に3ドアのみの設定で、MTであり、比較的活発に走ります。
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写真はGTi。ノーマルの208よりわずかにトレッドを拡げて、走りの安定感を増しています。これはXYも同様です。もっとも基本ボディは208各車で大きくは変わりません。
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これはAllureのサイドビューです。GTiとXYは、フェンダーの縁がわずかに広がっていますが、写真で見ても差があまりわからない程度です。208は、ホイールベースは先代207と同じで、前後オーバーハングだけを縮めたので、ひきしまって見えます。カタログには、「まるで砂丘の風紋を思わせる美しく力強いプレスラインが刻まれています」とありますが、ボディ表面の造形は、まさにそのようでした。そのうえ、クロームの装飾などを積極的にデザインしています。サイドのウィンドウ下端のラインなどはその典型です。ちなみに、208のラインナップには5ドアもあります。
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208は、リアもバンパーまわりがふくらみがあったりして、はずむゴム鞠、のような固まり感が、心地よいデザインです。206も似た感じでしたが、208はもっとスタイリッシュという印象です。テールランプのデザインなども凝っています。これはGTiですが、ホイールが精悍に見えます。サイズは17インチです。
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これはXYです。光の加減で見え方が変わりますが、「パープル・ナイト」というボディカラーがシックです。XYの外装色はほかに「ダーク・ブルー」もあります。この写真では不鮮明ですが、Cピラー部の「XY」の専用エンブレムが、まさにフランス・ブランドらしいしゃれたものです。
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208で、おっ、と思うのは、グリルです。プジョーの新傾向のデザインのようです。「フローティンググリル」と呼ぶデザインは、なかなかユニークで、立体的な造形から、ヒゲクジラかなにかの口ようにも見えます。これは208Allureのものですが、数種類のグリルパターンがあります。ちなみに、フォグランプの縁に尾ヒレがついているのが目につきますが、万事がこの調子で、細部までデザインにこだわっていることが、ひしひしと伝わってきます。
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これがGTiのグリルです。基本的な外形は通常モデルと同じですが、シルバーの太枠の形状を変えて、上下を薄くして、幅広に見せています。余った下の部分はGTiのテーマカラーの赤に塗られています。グリルパターンは、チェッカーフラッグがモチーフです。グリルとボンネットの間の部分には、「PEUGEOT」の文字が赤で入っています。
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XYは、基本形はGTiと同じですが、グリルのパターンは違うもので、クラシカルな、クロームの格子グリルです。XYでは、グリル枠下部はブラックになり、「PEUGEOT」の文字は紫です。ちょっと惜しいのは、日本の現状のナンバープレートの形状です。
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GTiの室内に乗り込むと、心の琴線がまた少しふれます。見たとおり、赤が各所に配されています。事前情報として、赤を使っており、しかもグラデーションということだったので、落ち着かないのではないかと心配していましたが、意外に落ち着いていました。かなり色が濃くのった赤ですが、ブラックとのグラデーションで、不思議と渋めに見えました。ブラックの部分は、いわゆるピアノブラック仕上げであり、その赤バージョン、という感じの仕上げです。208は本来コンパクトカーですが、GTiはスポーティーかつシックという感じの演出で、がんばっているという印象でした。
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ドアハンドルと、ダッシュ中央付近も、赤と黒とのグラデーションです。ところで、208の大きな特徴として、小径のステアリングを採用しています。これは意欲的な試みで、ステアリングの上からメーターを見るようにしたものです。メーターを上部に置くことで、ドライバーの視線の移動量を少なくするねらいです。ヘッドアップディスプレイから発想されたそうですが、この208の場合は、基本的な設計デザインの見直しで、新しさを追求しているわけで、プジョーの積極的な姿勢が感じられます。もちろん、評価はいろいろあるかもしれません。視線移動量が少ないこと自体は、あたりまえに考えて、悪いことはないはずです。小径ハンドルは、少なくともGTiとXYのものについては、良好に思いました。パワステの調合次第なので、むしろ小径ハンドルが普及してもよいかもしれないと、考えさせられました。いっぽう、このレイアウトだと、メーターパネルの天地を薄くする必要は生じます。208は、メーターの径が小さいようであり、おそらくその結果で数字が小さくなっています。メーターの形状を扇形や半円にするなどすれば、もっと数字を大きくできるという気はしますが、クラシカルなアナログ調のデザインをあえて採用しているのかもしれません。
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こちらは、208Allureです。GTiとXYの場合は、ステアリング下部(6時付近)を平らにしているだけですが、通常の208の場合、ステアリング形状がこのような楕円形になります。2月のJAIA試乗会での、ごく短時間の試乗ではこの楕円ステアリングには若干違和感を感じましたが、好みと慣れの問題かとも思います。

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GTiのメーターパネルです。2枚上の写真ではストロボの反射で、盤面のチェッカー模様が目立っていましたが、こちらが実際の見え方に近いかもしれません。メーターのまわりの赤い縁取りはLEDです。下に見えているダッシュボードの表面素材はテップレザー(人口皮革)で、赤いダブルステッチが入っています。このテップレザーはソフトで、十分、上質感がありました。フランス車らしいエレガンスを感じさせるところです。
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こちらはXY。テップレザーのダッシュボードは、XYはシルバーで、紫のステッチが入ります。メーターパネルすぐ下はピアノブラックのパネルで、このパネルがダッシュ中央へとつながっていているのが208の特徴です。XYの場合はブラック/シルバーのグラデーションです。メーター周囲は紫色のLEDです。
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208のダッシュボード全景です。これはAllureのもので、モノトーンのブラックで仕立てられています。色づかいの多いGTiやXYだと気づきにくいですが、このAllureでは、基本的な造形のおもしろさが新鮮に見えました。ダッシュ中央のタッチスクリーンのパネル周囲から、右上のメーターナセルにかけては、ピアノブラック仕上げの光沢パネルになっています。まずそれが目立つのですが、さらにその周囲に、アクセントとしてシルバーの装飾的デザインが施されていて、これはどうもフランス的だなと思わされます。このダッシュボードの全体的な形状は、導入を控える新型308でも、同じようなデザインであり、写真で見るかぎりさらに洗練されているようです。ユニークですが、とにかく、安易に決めたデザインではないのだと思います。
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これは、XYです。ダッシュボード正面は、シルバーのテップレザーで、ここも紫のステッチが入り、シックです。エアコン吹き出し口の形状も、些末な部分ですが、おもしろいと思いました。この形状自体は208各車共通ですが、和菓子のねりきりでつくったかのように、ねじりを入れた造形で、ちょっと粋な感じです。フランス発のメーカーとして、センスを感じさせるようなデザインを心がけていると思います。
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ドアハンドル(ドアパネル)は、メビウスの輪をモチーフにした、と説明されています。これはXYです。
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GTiでは、ここはグラデーションです。グラデーション塗装は、意外にエレガントに見えます。PSAグループのデザインのトップは、2008年にジャン・ピエール・プルエ氏が就任しましたが、彼は、若い頃に初代ルノー・トゥインゴのデザインを担当したデザイナーとして知られ、キャリアを重ねてシトロエンに移籍してきたあと、グループ全体のデザインを統括するようになりました。主観的な印象ではありますが、PSAグループのデザインは、現在、なかなか充実しているような印象があり、208もその一環という感じがします。
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GTiのシート。208の通常モデルもバケットシート的な形状で、一見似ていますが、GTiはサポートがより大きく、包み込むようです。クッションも、心地よく感じました。
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XYでは、紫のアクセントが入ります。GTiと形状は同じで、サポートのしっかりしたスポーツシートです。この写真は雨と霧で少しぬれています。
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リアシートもGTiは赤がテーマで、シートだけでなく、シートベルトにまで赤いラインが入っています。208は、207よりも車体全長を縮めながら、各部の形状を見直すなどして、後席スペースはむしろ拡がっています。
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207より、オーバーハングを縮めていながら、トランク容量は増加しています。パッケージングをかなりがんばっているということで、コンパクトカーの本分を全うしてきています。フランスのコンパクトカーは、こうでなくては、というところでしょうか。全長は3960mm、ホイールベースは2540mmです。ちなみに207と比べて、オーバーハングは前側のほうを大幅に75mm縮めています。後ろ側は10mmです。近年のプジョーはノーズが長いのが特徴で、スマートな反面、少し長すぎるような印象もあったかと思います。

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GTiのアルミシフトノブ。この写真では見えにくいですが、サイドが赤くなっています。6速のMTです。
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試乗会場には、伝説の205GTIと、208のラリーカーのレプリカが展示されていました。205は、肩のラインが低く、窓が広く見え、軽快に見えますし、今見てもやはり粋で精悍な感じを受けます。
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208GTiは、205GTIの伝説を復活させようというものです。1980年代の205は、スポーツモデルのGTIを設定して、モータースポーツ活動も積極的に行ない、プジョーの経営危機を救ったうえにイメージを若返らせた、成功作です。その205と同じように、208はラリー参戦仕様車を早速設定したりして、積極的なスポーツ活動を展開しています。これは会場に展示されていたパネルのひとつですが、ニュルブルクリンク24時間レースに出場したマシンのようです。GTiが帰ってきた、と、英語で書かれています。
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これは、会場にあったレプリカとはまた若干違う仕立てのラリーカーです(手前)。モータースポーツ活動から来るスポーツイメージを、ヨーロッパのメーカーは、今でも積極的に有効活用しています。後ろのクルマは、1980年代にラリーの世界チャンピオンを獲得した、205ターボ16。プジョーのブランドイメージに影響を与えた伝説的な大成功作です。
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試乗会の数日前に、208を名のる、公称875馬力のスペシャルマシンが、アメリカのヒルクライムレースに参戦し、見事に優勝しました。このマシンは、中身はまったくのスペシャルですが、外観をとにかくかっこうよく見えるように、デザインしています。企業がモータースポーツに参戦する理由はなにかと考えたら、そういう部分は絶対大事なはずですが、フランスのメーカーは、そういったことがうまいと思います。このレース、パイクスピークには以前に一度行ったことがありますが、4000mを超える山の頂上を目指して麓からタイムアタックするもので、近年舗装化が進み、昨年来すべてが舗装されました。ということは、サーキットレースに状況が近いわけで、プジョーはそこでぬかりなくというべきか、ルマン用マシンの技術を流用してマシンを仕立てて参戦してきました。セバスチャン・ローブというドライバーと、レッドブルというスポンサーがいっしょに行き、そこでコースレコードを大幅に更新して、見事に勝ちました。オーバーに言えば、リサイクルのようなマシンづくりですから、費用対効果ということでは、理にかなったレース活動と思います。プジョー・ブランドはアメリカに進出していないはずですが、このレースの特別なダイナミックさからして、全世界に配信される効果を勘案して、参戦したのかと思います。プジョーは過去に205の時代にこのレースで優勝しているし、レッドブル好みのレースともいえるかと思います。
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208GTiは、日本では、漫画家/イラストレーターの江口寿史氏とのコラボレーションを行なっています。グラフィックノベルの作品はWEBサイトで公開されています。会場には、いろいろなパネルが展示されていました。
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GTiのコラボレーションとしてもうひとつ、当日、スポーツシューズメーカーのパトリックのシューズを、試乗時に試着できました。パトリックはフランスのブランドで、軽量で、フランスらしいしゃれた雰囲気があり、たしかにGTiによく合うイメージの靴だなと思わせるものがあります。どういうわけか、そのマークも、プジョーによく似たライオンのマークです。昔から、パトリックはドライビングシューズに良い、と聞いていたのですが、MT車でヒールアンドトーなどをするのにも、パトリックは最適の部類かと思います。
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これは当日、いただいたものです。震災で被害にあった方々が、ものづくりをとおして、経済的自立や心的ストレスの軽減を促すという、「小さな復興プロジェクト」によって、つくられたものです。「オサカナ ドット オナガワ」というブランド名で、ほかにも製品があるようです。このキーホルダーは、さくら、かえで、くるみ、なら、の4種あるそうですが、ヤスリがけが大変な作業だとのことです。木のぬくもりがなんともいえません。
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今回の試乗は、濃霧のために、あまり思うように走れませんでした。GTiは、やはりある程度硬めの足ですが、プジョーらしく快適な足付きです。真骨頂は、フランスのラリーのステージのような、アップダウンがあり、舗装が荒れているような、ワインディング路です。路面の凹凸を着実にいなしながら、コーナーをクリアしていく安定感は、感動的です。しなやかな筋肉質の足で、かつ粘着質のように路面にはりつく感覚があります。208は多少車高がありますが、タイヤが四隅に張っていて、オーバーハングが短いゆえの素直な動きかなと思わせるものがあります。エンジンは、気持ちよい回転フィールで、スムースです。200psもあり、トルクもかなり太く、パワフルです。
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XYは、もう少し大人しいですが、やはり6速MTで、全般にGTiをもう少し軽度にしたスポーティーモデル、という走りをします。紫をテーマにしたシックな内外装デザインで、颯爽と走る、というクルマと思います。
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3気筒エンジンを積んだAllureも、なかなか活発でした。Allureは、日本向けの中では廉価モデルですが、スポーツ心が少しある設定で、MTです。サスペンションはトレッドがGTiより若干狭く、ソフトにもなるので、ロールをしますが、おそらくいっぱいに攻めても粘りそうで、フランスの田舎道などで活発に走りまわっていそうな感じのクルマです。印象的だったのは、3気筒エンジンで、1.2リッターのノンターボなので、トルクもそれほどはないし、82psを5750rpmで発生というので回転数もそこそこですが、チューニングエンジンのような快活なまわり方をするというのが第一印象でした。バランサーシャフト付きのうえ、フリクションロスを徹底的に軽減しているとのことです。本来はCO2削減のためのダウンサイズエンジンだと思いますが、ノーズが軽くなり、車重は1070kgを実現しているので、走りも軽快です。ちなみにGTiとXYは1200kgです。
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GTiは200psにも達し、ボトムレンジのコンパクトカーの枠を出る存在になっています。GTi/XYは、内装もプレミアムカーらしく作り込みがされています。走りも速いですが、気張ったものではなく、パワー/トルクがかなりあるため、余裕で走れる感じです。それでいながら、基本はひきしまったコンパクトカーの身軽さをもっています。なにより、フランスらしい、プジョーらしい、軽妙でしゃれたセンスを感じさせます。国産車にはなかなかない、はっきりした付加価値的な魅力を備えたコンパクトカーと思いました。価格はGTiが299万円、XYが269万円で、ベーシックなAllure は、199万円です。


(レポート・写真:武田 隆)

リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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