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DS 3スポーツ・シックに試乗

少し前になりますが、DS 3に長距離試乗しました。6MTのマニュアルトランスミッションと、1.6リッター・ターボを搭載するスポーツシックというグレードで、走りはスポーティーカーとしておおいに満足。いっぽうエクステリアのデザインも、さすがパリ発のブランドと思わせる"シック"なもの。一見相反するこのふたつを両立したところが、フランス流自動車ならではと感じました。

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DS 3はマイナーチェンジをうけて、かなりインパクトのある顔つきになっています。これはシトロエンの上級ラインとして新設されたDSブランドの各車で共通のフロントマスクの意匠です。舞台用に濃いアイメイクを施した‥というような趣きで、スポーツ系自動車としては、少なくとも日本的感覚からすると、印象が強すぎるかもしれません。しかしこれがパリ流、フランス流なのだなと、思う次第です。
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各部には従来からかなりの光りもののパーツがあしらわれています。こういうクロームの装飾は、スポーツ車にはそぐわないと考えていましたが、このクルマに関しては、素直に感嘆という感じです。ひとつひとつの形状が、現代的でスマート。やはりこの手の装飾の本場、フランス人が仕立てたものは違う、と思わせるものがあります。ひと言で言ってセンスが違うなあという感じです。
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ボディはホワイトで、フローティングルーフと称するルーフが別色になる、DS 3特有の2トーンカラーですが、このホワイトのボディに銀のモール類が付いて、さらにグリルの中がブラック、というのが実にシックです。このシックでモダンな雰囲気は、日本やほかの国ではできない、フランス特有のものではないかと感じます。
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もちろんこの雰囲気を好むかどうかは、人それぞれで、たとえば女性は、この雰囲気に素直に惹かれるかもしれません。いっぽう男性はそうではないかもしれません。DS3からは、ルイ・ヴィトンとかイヴ・サンローランなど、オートクチュールに加盟するようなアパレルのトップブランドと似たようなものを感じます。それらにはメンズもあると思いますが、たとえば日本でそういうのを身につける男性はそうはいない気がします。
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オートクチュールのブランドでも、スポーツを意識した展開はあります。そもそも近代スポーツは、貴族が始めたものが普及した、というものが多いわけで、テニスとか、ヨットとか、乗馬、ゴルフなどは、今でもハイソな世界観が色濃くあります。そういうスポーツをたしなむ人にとっては、男性でもこのクルマは違和感がないかもしれません。「DS」はフランス流を強く打ち出しています。「DS」はプレミアムブランドを標榜していますが、そこでフランス文化の強味のひとつである、フランス流高級を内外装で表現しようとしています。 たとえば「DS」ブランドが立ち上がる少し前に、ルイ・ヴィトンからシトロエンへ、デザイナーの移籍もあったようです。
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内装はこんな感じ。DS3は、DSブランド立ち上げにあたっての最初のモデルです。なので「高級なDS」の世界観が、それほどは確立されていません。価格からしてDS 3は、それほど高価ではありません。内装の素材なども、超高級車のようにはコストがかかっていません。ただし、センスがやはりよいのです。
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ちなにこのクルマは6速MT で、ヒールアンドトーを駆使して、古典的なドライビングを楽しむことができます。走りに関しては基本的には、スポーティーカーとして申し分なく、走りが最も楽しい部類のクルマだと思います。このクルマの誕生の背景には、シトロエン社のWRC(世界ラリー選手権)での大活躍があります。スバルがWRCで活躍したあとに、「WRX」というブランド(車種)が育ったのと同じように、シトロエンから「DS」が育ったと、タイミング的にはいえないこともありません。DSの場合は、あくまでも硬派なスポーツブランドではなく、センシティブな革新的プレミアムブランドという位置づけをはっきりさせています。ただどの車種も、サスペンションは比較的硬めで、GT的といいたいような乗り味です。ソフトさが売りであるシトロエン・ブランドとは異なります。
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シートはサイドのサポートもしっかりしています。ステアリングは前後に動くテレスコピック機構がないので、着座位置を少し合わせにくいと思いましたが、ヒールアンドトーができるくらいには十分ポジションをとることはでき、ラリーに出場するわけでもないので問題はなく、乗っているうちに慣れたというところです。近年のクルマにしては、サイドウィンドウの見切りが低く、視界はよいかと思います。
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メーターパネルはこんな感じで、しゃれています。パネルがカーボン調で、これがまたシックでもあります。このカーボン調は、パネルの箇所によって2種類の意匠があります。しかしこのメーターは、読みやすさでいうとあまりよくはありません。フランス車は皆申し合わせたように、スピードメーターもタコメーターも、針の中心に合わせて数字が配置されており、しかも文字が小さいので、もう少し読みやすくしてほしいとは思います。そのほか逆光の状況では、フロントグラスにダッシュボード上面が映りこんで、見づらいことがありました。
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リアシートはスペースとしては十分にあります。2ドアで、しかも後の窓は開かないので、心理的に閉塞感はあります。しかし後部座席も空間をしっかり確保するのは、シトロエンの面目躍如です(正確にはDS ですが)。これは戦前からのシトロエンの伝統です。
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同様に、後部の荷室もしっかり確保されています。
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スポーツシックは、4気筒1.6ターボを積む、現状の日本市場のDS 3の中では最もスポーティなグレードですが、スパルタンなわけではありません。足は硬めですが、路面の凹凸もいなし、しなやかで走りやすいものです。サイズがコンパクトであるだけに、ツイスティーなワインディング路では走りやすく、楽しめます。
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全長3965mmに対し、ホイールベースは2455mmと、最新のクルマよりはホイールベースが若干短いともいえます。タイヤは205/45R17で、ミシュランのパイロットスポーツ3でした。DS 3は全日本ラリーでも、WRC修行中の新井選手が乗って速い走りを見せたりしていますし、なによりもWRCのトップカテゴリーでチャンピオンをとったクルマです。そんなことを多少意識しながら、ちょっとしたスポーツマン気どりで乗るというのが、このクルマのスタイルでしょうか。車重は1200kg、馬力は165ps、240Nm(24.5kgm)です。
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高速道路でも直進安定性はよく、シートのよさなどもあるでしょうが、コンパクトカーとは思えないくらい、安定して快走します。ただ2010年デビューで設計年次が最新ではないせいか、室内のたてつけなどが盤石ではない感もありました。外観は、基本的にはかなり丸みのあるボディで、立体感に富んでいます。そしてフラッシュサーフェイスのようでいて、意外に彫刻的な彫り込みがあって、立体感が光の加減によっては目立ちます。やはり東洋ではなく、西洋のデザインなのかとも感じられます。
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DS 3はとくにマイナーチェンジしてから、エキゾチックな顔つきになりました。
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ちなみに、これがマイナーチェンジ前の顔。このほうが素直で、こちらが好みの人も少なくないかもしれません。ただ「DS」の世界観を表現したのは、今の顔なのだろうと思います。このクルマはDS 3カブリオです。カブリオはボディ剛性が若干は下がりますが、タイヤが少しマイルドということもあるためか、路面に吸い付くようにして走ったという記憶があります。
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マイナーチェンジ後のDS 3は、LEDとキセノンのランプを採用して、目つきそのものも変わっています。内側の3つのランプがLEDで、ダイアモンドシェイプと謡っており、宝石のような雰囲気を醸し出しています。ちなみにDS 3のヘッドライトのデザインは、1955年に誕生したオリジナルのDSの、後期型のヘッドライトをイメージしているといわれます。
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この後期型で気になるのは、目そのものよりも、眉毛の部分です。DSブランドのトレードマーク、DSモノグラムで飾られています。ルイ・ヴィトンの「LV」とか、イヴ・サンローランの「YSL」などと同じような、モノグラムです。だからどうしたということもないのですが、やはりパリのブランドだからさまになるのだと思います。自動車の「高級」の表現はそれぞれですが、よその国ではなかなかできない表現をやっている、という意味で、DSは興味深いと思います。
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「DS」はフランスらしさ、パリらしさを全面的に出そうとしたクルマです。世界を席巻するドイツ・プレミアム勢に対抗するために彼らが出した答なのかどうか、DSはフランスが得意とする高級の表現、そしてモダンな表現で、クルマの魅力を出していこうとしています。VWやアウディは、「ドイツ製品」のよりどころのひとつである、「工業デザイン」らしさを、内外装に打ち出している傾向が近年見てとれます。幾何学的でシンプル、モダンなデザインです。それに対してDSは、フランス製品のよりどころである、伝統の奢侈品のテイストを盛り込んでいるようです。
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DSで重要なのは、「センス」ではないかと思います。この路線が、世界でどこまで通用するかはわかりませんが、センスで勝負するという発想が浮かぶ、フランス人のその自信がうらやましくもあります。もちろんDS3は、クルマとしての基本がしっかりしているところも大きなポイントです。こんなデザインであっても、スポーツマシンとしての基礎ができています。なにしろシトロエンは、近年WRCで圧倒的な成績を残しています。2017年のWRCでは、DS 3は引退して、シトロエン・ブランドのC3にラリーカーが変更になりましたが、依然トップカテゴリーでの走りを披露し続けています。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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