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BMW118dに試乗

BMW1シリーズのディーゼル搭載モデル、118dに試乗しました。計約750km走っての感想です。比較的小柄なFR車ですが、息の長い大人の走りをすると快走する、実のあるハッチバック車でした。


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1シリーズは、BMWブランドの中でも一番下の弟分ですが、ひとめでわかるBMWのデザインで、BMWらしい高品質感があります。
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BMWであっても、1シリーズには固有のデザイン言語も見受けられます。それでもモデルチェンジやマイナーチェンジによって、以前よりは独特のくせが緩和された感があります。
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近年のBMW車のボディ表面は、プレスラインで強調された彫刻的な立体感が特徴で、トレンドセッターだといわれました。彫りの深いプレスラインはとくにボディサイドで顕著です。ただ、彫りを深くするトレンドは、欧州あたりでは既に傾向が変わっているようで、BMWでも最新のモデルはもっとすっきりしている印象です。この1シリーズは、マイナーチェンジ後もボディサイドについてはあまり変わっていないようで、ある意味かつての時代の名残を残しているようにも思えます。それにしても光の具合で、立体感が美しく表れます。ちなみにリアエンドはマイナーチェンジ後に水平のプレスラインを1本、下側に追加しています。テールランプのデザインも大きく変わり、横長であることが強調されています。月並な表現ですが前側も後側も、より精悍なデザインになった、という感じです。
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ヘッドランプ形状は、以前は半月型の独特な目だったのが、2015年(日本市場の)マイナーチェンジで角型に近い精悍なものに変わっています。従来は内側(グリル側)のライトが小さかったのが、ほぼ同じ大きさのもの2つになったようです。ランプはハイ、ローともLEDですが、この車両はアダプティブLEDヘッドライトとLEDフォグランプをオプションで付けています。いっぽうキドニーグリルも幅広になっています。従来型はボートの舳先のような独特なフロントノーズ形状だったのが、現行型はそうではなくなりました。
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ちなみにこれがマイナーチェンジ前の1シリーズです。この目と鼻のデザインから連想してしまうのが、かつての1960年代のクーペに採用されたデザインです。
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これです。当時BMWの通常のモデルは丸型4灯ないし2灯のランプでしたが、2000CSは異型ヘッドランプが特徴的でした。車体前面に、鉄板の平面部分が多いのも独特でした。余談ながらこのクルマを目にするたびに思い浮かぶのは、熱帯魚のアロワナです・・。
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室内もBMWらしいデザインです。このクルマの内装は黒と白の2トーンで、すっきりと若々しい雰囲気ですが、高品質感は1シリーズであっても感じられます。
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前席はオプションの電動のものがついています。ステアリングはさすが上級ブランドだけあるというべきか、チルトだけでなくテレスコピックで前後に十分に調整ができます。
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後席はこんな感じ。足もとスペースはまず十分あり、前席の人が多少後方に下げて座っても、十二分とはいかなくても、十分膝スペースはあります。ただし後輪駆動なので、立派なセンタートンネルがあり、5人乗るのは短距離だけにしたいという感じです。
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真横から見たプロポーションはこんな感じ。一番下の弟分とはいえ全長4340mmあるので、そう小さくはありません。ホイールベースは2690mmあるので、後席スペースも十分長さを確保できてしかるべきです。一般論でたとえば同じ縦置きエンジンで比べたら、前後方向のスペース効率は前輪駆動よりもむしろよいといえるかもしれません。ヘッドルームもしっかり確保されており、ウィンドウグラフィックやボディ下部の立体造形によって、多少は尻下がりのデザインに見せてはいるようですが、実際のルーフラインはワゴン並みにまっすぐリアエンドまで伸びています。
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実はドイツ車はセダンでもそうだと昔からいわれますが、このハッチバック車も、スタイル優先ではなく、実直にスペース設計重視でデザインされているわけです。ただし、おそらく、2ボックスハッチバックでもBMWらしさが出るように、Cピラーの形状や、ボディサイドのプレスライン、とくに上述のボディ下部の立体造形などで、いろいろ工夫しているよう見うけられます。初代の1シリーズはとくにボディサイド下部のプレスラインが舟底のようなカーブで、特徴的でした。
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後部の荷室も十分に確保されています。リアにデフのない前輪駆動と比べて、とくに狭いようにも見えません。床下にはバッテリーが積まれており、前後重量バランスを整えているのではないかと思います。
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ここでようやくディーゼルエンジンが登場します。こうして見るとけっこうなフロントミドシップというべき後方寄りの搭載位置です。4気筒2リッターのディーゼルで、可変ジオメトリーターボが使われています。150ps/4000rpmとそれほど高出力ではありませんが、トルクが320Nm(32.6kgm)/1500〜3000rpmあります。ディーゼルの常ですが、とにかく低回転からよく力を出します。
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同クラスのディーゼル車で、もっとトルクフルなクルマもありますが、118dは走っていてもちろん不足はありません。音については、始動時やアイドリング時にディーゼルとわかる音はしますが、気になるほどではありません。走っているときには、トルクが十分なので、アクセルを踏み込まず、かつ高回転まで回さずに走れるため、むしろガソリンよりも車内は平静かもしれません。
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メーカーによっては大排気量スポーツカーのようにパワフルなディーゼル・エンジンを積む乗用車もありますが、118dは、ある意味大人というか、必要十分な力を出しているよう印象で、スポーティモデルという雰囲気ではありません。今回山道もいろいろ走ってみましたが、力はあるので気持ちよく走れるものの、高回転型ガソリンエンジンのような、回して走る楽しみはありません。後から来た先を急ぐ2輪車に道を譲ったとき、泣き叫ぶように高回転まで回して遠ざかっていく音を聞いて、ああやっぱりあれこそが・・・と、しみじみ思った次第です。
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まあそもそも走り方がガソリンとは違うのだろうと思います。シフト操作のリズムがまるで違い、仮にせいいっぱい走るにしても、ガソリンの(とくに古い)エンジンでは、高回転までそのたびに回して回転域を保つのに対し、ディーゼルでは中低速域を使うのがおいしい走りです。頭の中を入れ替えて、リズムを変えて走るようでないと、つぼにはまりません。ようは慣れの問題だと思いますが。
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そもそも悠々と走るのがこのクルマの性格だと思います。もちろん1シリーズでBMWなので、スポーツ選手としての基本はしっかりしていそうですが、あまりがんばるのはむいていません。装着タイヤがある程度やわらかいので、無理をしようとすると、すぐに鳴くし、たわみを感じます。そのかわり乗り心地はなかなかよいものです。
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若干ハイペースぎみに走るぐらいだと、やはりスポーティな爽快さを感じさせ、おそらく日本で体験できない超高速域まで、安定して走るのだろうと思います。ただし舗装の悪い低速の山間路では上下動の収まりがよくない傾向を感じました。装着タイヤはBSトランザER300、205/55R16で、スタイリング優先の大径タイヤでなく、乗り味重視の実質をとった良心的タイヤ選択といえそうです。
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ドライブモードを換えることができ、スポーティな「スポーツプラス」モードでは、ふつうに加速してだいたい2500rpmでシフトアップし、減速すると約1500rpmでシフトダウン。「ノーマル」モードでは1500rpm弱でシフトアップ、1000rpm弱でシフトダウンという感じでした。レッドゾーンは5000rpmを超えていますが、MTモード時でも、5000rpmの少し手前で自動的にシフトアップするようです。8速ATは、MTモードを選択できますが、パドルシフトは備わりません。そのことからもこのクルマの性格が窺えます。
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今回燃費は、高速往復と少しの山道を走った235kmが約15.6km/リッター。高速主体でスムーズな山間路も1/4ほど走った250kmが約15km/リッター。下道のみで、山間区間を比較的アクセルを踏んで走った260kmが11.4km/リッターでした。軽油は単価も安く、輸入車の場合ふつうはハイオクガソリンであるので、燃料代の差はかなり大きいといえます。
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今回の感想としては、せっかくのBMWで、せっかくのコンパクトな1シリーズで、せっかくの後輪駆動なので、もう少しスポーティな設定のほうが、乗りがいがありそうだと思った次第です。タイヤを換えるだけで、望むものになるかもしれませんが。BMWらしさがあって、コンパクトなサイズで、しかも経費は抑えたいということであれば、ディーゼルのこの118dは価値がありそうです。なにより力に余裕があって、スイスイ走れるということで、やはり十分快走できるクルマです。そしてBMWとしては一番小さくても、実用性の十分ある車体です。ヨーロッパのユーザーと同じように、長距離をクルマでどんどん走る、というような使い手には、よいパートナーではないかと思います。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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