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アウディA4に試乗(その2、2.0 TFSIクアトロ・スポーツ)

前回に続いてアウディA4についての印象記です。今回は2.0 TFSIクアトロ・スポーツです。


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前回の2.0 TFSIより、外観も精悍ですが、それはこの車両がS lineパッケージというオプションを装着しているためでもあります。バンパー下部のエアインテーク付近など気迫を感じます。タイヤも18インチを履いています。245/40R18で、銘柄はピレリ・チントゥラートP7でした。
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それにしても、新型A4のプロポーションは、低く長く精悍に見えます。プロポーション追求の鬼のように、先代から微妙にしかし確実に進化させています。あたかも体型維持に24時間全神経を注ぐファッションモデルのようですが、しかしやせすぎず、そしてもちろん太りすぎず、です。
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ボンネットはこのように大きく開きます。クラムシェルと呼ばれるタイプですが、そのサイドにまでまわったボンネットの開口線がそのままベルトラインとしてリアまで伸びています。このベルトラインがまた非常にシャープに、彫刻刀の三角刀で彫ったかのように刻まれています。だからどうしたということもないのですが、こうした構造的なものとデザイン上のものを一致させて、結果的にシンプルで精緻なデザインにするのが、アウディのデザイン哲学の表れといえるようです。最近あまりいわれないようですが、その哲学はバウハウスなどと同根であるとされています。
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リアビューは比較的ふつうで、近年のクルマのデザインの最大公約数的のようです。ただ、旧型と比べてテールランプが細くなって、内側の下部が奥へ落ち込んだ凝った形状になっているのが目につきます。こうして見ると上述のボディ側面のベルトラインは、1本の線でもなだらかにカーブしているのがわかります。この線の上部の面、つまり「肩」の部分が傾斜していますが、この面がはっきりあるのがまた印象的です。
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近年のほかのドイツ車でも、この斜めに落ちる肩の面がよく目につきますが、それによって車体の重心の低い安定感のようなものが感じられます。日本車などは制限のある車幅のためにこういう面はとれないのかもしれませんが、肩がもっといかってしまって、地を這う安定感に欠けるデザインが多い気がします。やはりドイツ車は、動的な性能を視覚的にもしっかりと外さずにデザインするのが文化になっているのではないかと感じます。
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このA4はエアロダイナミクスを追求したのもポイントです。CD値は0.23を標榜しています。トランクリッド後端がスポイラーのような形状になっていますが、その線の入り方がまたプレスの精緻さを感じさせます。
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しかしなんといっても見せ場、勝負どころはやはり、尻ではなく顔であるようです。それはとくにグリルとヘッドランプですが、ほかにもたとえば先ほどのクラムシェル状ボンネットによって、幅を広く見せているようです。つまりヘッドランプユニットの端から端までがボンネットの幅になるわけです。そのボンネットは、推敲に推敲を重ねて、ラインも数本入れながら、その面を仕上げたような印象です。日本車の優美な曲面(たとえばマツダなど)とは質感が違って、A4はもっと硬さがあり、それがやはりドイツ流ですが、繊細な仕上げなのは変わりなく、空の雲などが映り込んだりすると、アートなボンネットだと、しばし眺めたくなります。
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この広いボンネットの前端が、ヘッドランプとグリルの上縁を段差なく1本の線でつないでおり、さらにグリル内のデザインも水平バーが入り、水平方向の線が強調されたデザインになっています。それらが直線的な線で構成されており、それが最新のアウディのデザインのひとつの傾向のようです。"テクノロジー"と"スポーティさ"を表現していると、プレスリリースにも書かれていますが、たしかそのように感じるデザインだと納得します。最新のアウディの顔つきは少しきつくなったという声も聞き、たしかにそうも感じられますが、きわめてシャープな直線で構成されるフロントマスクの造形は、なかなかインパクトがあります。
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アウディのコンセプトカー、プロローグ・オールロードのフロント部分。2015年東京モーターショーにも出展されていました。2014年に就任したアウディのデザインのトップ、マーク・リヒテ氏の指揮の下のデザインとのことで、今後のアウディ市販車の方向性が示されているといえるようです。ショーカーだからだとも思いますが、このグリルなどはアールデコっぽさを感じます。
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クラムシェルのボンネットを開けるとこんな感じ。エンジンは252ps、トルクは370Nm。クアトロでない通常の2.0 TFSIとベースは同じでも、大幅に強化されており、フィーリングもだいぶ異なり、高性能エンジンらしい快音を発します。
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走りはFWDモデルよりも、スポーティです。こちらを基準に考えると、あちらはファミリーカーという雰囲気です。ただし、この車両はS lineパッケージ装着車で、タイヤも大径で、乗り心地は硬めです。オプション設定の可変ダンパー付きなので、通常はドライブモードをComfortにして走りたいと思った次第です。ワインディング路ではDynamicで走ると快走し、FWDモデルよりスポーティです。
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それにしてもその走りは低く安定して、地面に張り付くような雰囲気があります。先述の外観デザインで表現されているようなイメージです。ロールもあまり大きくなく、姿勢が安定している感じです。それでいて角はとれて乗り心地は上質。とくにスピードが乗ってきたときは快適そのものです。ステアリングのフィールも非常によく、試乗後にその感触がしばらく身体に残った、と感じたほどでした。
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内装はこれがまた大変すっきりしています。この車両はダッシュパネルがアルミ調でしたが、いかにもアウディらしい雰囲気ともいえそうです。
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これは同時にこの時乗ったFWDの2.0 TFSI。クアトロ・スポーツのS Lineパッケージと比べて、とくにフロントまわりはおだやかなデザインになっています。
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A4はDセグメントに属し、BMWでいえば3シリーズ、メルセデスではCクラスに相当します。ただ日本での価格は、上級グレードのみ導入されるようで、高めになっており、A6とはいわないけれど、A4.5かA5.5などと言いたくなるぐらいの車格に感じます。試乗した2.0 TFSIクアトロ・スポーツは、価格が624万円、オプションを含めると701.5万円でした。上記の各メーカーとも、モデルチェンジやマイナーチェンジで、目を見張る進化を遂げているようですが、競合によってどんどんレベルが上がっているのを実感します。
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しかしアウディは、多くのメーカーのベンチマークになっていると想像します。偶然ですが、前回のレポートを書いた直後、某国産メーカーのデザイン部門の方と話をする機会がありました。そのメーカーでは最近欧州を重視した新型車を発表したのですが、デザインがなかなか見応えがあり、その理由としては欧州市場のデザインや品質感に対する要求のレベルが高いことがあるそうです。そして質感の追求にこだわるメーカーとして、やはりアウディの名があがりました。官能評価については、繊細な日本人であり、実力のある御社のことだから、アウディのごとき高品質のクルマをつくるのは御社でも不可能ではないのでは、と聞いたら、談笑の中とはいえ、可能だという答え。もちろん、体制づくりも時間はかかるし、コスト的には難しさがあるはずですが、そのような質感向上の製品づくりの方向性が同社内にも今ないわけではないということでした。
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結局それはブランドづくりに必要なことだなどと、話はつながっていったのですが、そのブランド戦略にしても、アウディは、近代的なアプローチで、システマチックに行って成功した、といわれています。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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