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プジョーのディーゼル(308GT、308SW、508GT)に試乗

プジョー・シトロエン・ジャポンが7月12日に発売したディーゼルに試乗しました。308GTブルーHDi、308SWアリュール・ブルーHDi、508GTブルーHDiの3車です。とくに1.6リッターを搭載する308SWアリュール・ブルーHDiは、好印象でした。

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308GTブルーHDi。2リッターを搭載するモデルで、18インチタイヤを履き、少しスポーティな仕立てになります。180ps、400Nmあるので、力は十二分にあります。直前に乗ったBMWの118dよりも始動時のエンジン音は若干大きめの感じもしましたが、トルク感はこちらのほうがもりもりとある感じでした。今はどのディーゼルもそうですが、走りだしてしまえばほとんど音は気になりません。
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外観は通常の308と大きく変わりません。308シリーズは、GTi by プジョー・スポールでさえ大きくは変わらず、カラーリングやホイールのデザインなどで素性をアピールする感じです。308はオーソドックスな外観ですが、リアクォーターパネル付近のボディパネルの立体的造形などは彫刻がアーティスティックで、デザインには細部までこだわっていると感じます。そして基本的にはオーソドックスなのが好ましいところです。
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GTブルーHDiのタイヤは225/40ZR18で、かなりのロープロファイルです。そのため乗り心地は硬めではありますが、このサイズのタイヤを履いているにしてはしなやかだといえそうです。銘柄はミシュランXでした。それほどの走りは体験しませんでしたが、がんばって走ってもいい走りをするだろうと思います。個人的印象では、308の登場当初のハッチバックモデルは比較的硬いと思っていたので、その後308全体で熟成があったのかどうか、とにかくこの18インチモデルは予想以上にしなやかな足と思った次第です。
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排気量は2リッターあるので、とにかく力があります。2リッターのHDiは登場年次が、後述の1.6リッターよりも早く世代が古いので、ブロックは鉄製であり、軽快感は1.6リッターに譲るかなという印象です。しかしとにかくトルクフルで、履いているタイヤのせいもあり、力強く走りたい向きにはこちらがよいのかなと思います。180psは3750rpmで、400Nmは2000rpmで発します。ディーゼル全般にいえることですが、とにかく低回転からトルクが出るので、町中でもワインディングでも非常に走りやすいです。
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コクピットはガソリンの308ととくに変わらない印象です。近年のプジョー得意の小径ハンドルと、その上からメーター見るという独自レイアウトのコクピットですが、小径ハンドルは最初の瞬間あたかも子ども用のクルマを運転するかのような感覚にとらわれないこともなかったでしたが、実用上はまったく問題点はなく、むしろ操作はしやすく、腕を上げたり動かしたりする量が少なくてすむので、疲労感は軽減されます。このことは以前に長距離試乗で確認しました。ただし、メーターの数字が小さく、メーターが必ずしも読みやすいとは思えません。メーターを高い位置に置くことで、運転中の視線の移動量を少なくして安全性を高めることをプジョーは謡っていますが、メーターそのものが必ずしも見やすくはないのが惜しいところです。天地のスペースが限られるので、デジタルメーターにして上下に薄い楕円形のメーターにでもしたらよいのではないかと考えます。ちなみにこのGTのステアリングは、確認したわけではありませんが、GTiと基本的に同じステアリングのように思えます。
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右側がタコメーターですが、半時計まわりに回転します。パドルシフトはステアリング側ではなく、コラム側に付くので、ステアリングを回転させても位置が変わらず、ワインディング路でも存分に使えます。308は各モデルとも、スポーツモードが設定され、スポーツモード時はステアリングが重くダイレクトになるうえ、アクセルとシフトのレスポンスがクイックになり、スポーツ的な雰囲気を高めます。そのほかこの写真のように、メーターの文字が赤くなったりします。
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スポーツモード時はエンジン音も高まります。これは事前にサンプリングしてあった音をスピーカーから流しており、エンジン回転と完全に連動していますが、言ってみればつくりものではあります。この仕掛けはGTi byプジョー・スポールでも同じであり、ただおもしろいことに、モデルによってそれぞれ音が違います。ディーゼルでも1.6と2.0で違う音がしました。本物の音ではないので、がっかり感がなくはありませんが、プジョー・スポール・モデルでさえそうなのだから、ディーゼル・モデルではとくに気にはなりませんでした。ドライバーというものは、エンジン回転に連動して音が高まるだけで気持ちが高揚するのだと、308に乗るたびに実感します。308は遮音が充実しているせいもあり室内は静かでドラマに欠けるので、スポーツモード時の効果音はあったほうがよいと思います。
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1.6リッターを積む308アリュール・ブルーHDi。これはワゴン版のSWです。タイヤのサイズが205/55R16ということもあり、乗り心地は2リッターのGTよりもマイルドです。銘柄はグリーンXを標榜するミシュランの低燃費タイヤのエナジー・セーバーで、若干ソフト目のタイヤであり、ハードに走ろうとすれば不足を感じるかもしれませんが、通常の走り方ではクルマとして十分に軽快で、エンジンの軽やかさもあり、好印象でした。SWではないハッチバック・モデルは試していませんが、SWのほうが好印象という声も聞きます。以前に乗ったガソリン版モデルでも、SWはホイールサイズが小径ということもあり、SWのほうがソフトな乗り心地でした。この1.6ディーゼルのSWは全体のバランスがよいのか、乗り味を高く評価する声が多いようです。
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308SWはワゴンとしては比較的全長も短く、ハッチバックに比べてそれほど軽快感を失っていないようです。しかし荷室の広さなどはもちろん十二分なものがあります。
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1.6リッターを積むエンジンルーム。設計年次が2リッターよりも新しいようで、ブロックはアルミ製となり、よく回る軽快感はこちらのほうが上という印象でした。エンジン重量の軽さも、クルマ全体のバランスのよさに貢献しているかもしれません。
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アリュールのコクピット。ステアリングはGTとは異なりますが、コクピット全体の配置は同じです。運転席からはこのようにステアリングの上にメーターを見るのが特徴です。スポーツモード時のメーターが赤くなるなどの演出は、GTと同じです。ただし、効果音の音質が若干異なり、1.6のほうが意外にも少し野太いというか、ちょっとしたV型エンジンのようなビート音が低く響きます。ディーゼルっぽくはないですが、運転を楽しむという点では悪くないものでした。
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こちらは508GTブルーHDi。搭載するエンジンは308のGTと同じ2リッターです。508は登場後のマイナーチェンジでフロントマスクなどが少し精悍になっています。
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リアビューも登場当初とは異なり、こうして見るとなかなかモダンです。タイヤサイズは235/45R18でミシュランのプライマシーHPを履いていました。マフラーが2本出しであるなど、GTを名乗って若干スポーティな雰囲気です。ただ、全体的には508はかなりオーソドックスなセダンという印象です。そのわりには、少し乗り心地が硬めなのが気になりました。そのかわりワインディング路などでは軽快でシュアなハンドリングで、運転する気持ちよさはなかなかのものでした。このクルマはフロントサスペンションが、ガソリンモデルのようなストラットではなく、ダブルウィッシュボーンが採用されているとのことです。ダブルウィッシュボーンは先代に相当する407でも使われており、508はなんらかの理由で下位モデルをストラットに戻していたとみえます。しかしフランス車はスペックでは平凡なメカニズムでも走らせると目を見張るものがあるというのが常で、プジョーのサスペンションなどその最たるものです。508のガソリンモデルは、ストラットでも乗り味が素晴らしいという話も聞いていましたが、今後日本市場から消えるというのは残念なことです。ところで注目のエンジンはこの大きさのボディでも十分なパワーがあり、不足は感じませんでした。
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室内はたいへんシンプルにまとまっています。この大きさのセダンであればもう少し上級感の演出があってもいいかと思いますが、嫌みなところはなく、ある意味通好みといえるかもしれません。内装は地味で、乗り心地も硬めですが、車体も大きく、308よりはやはり格上のセダンだということが随所で感じられます。
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メーターはこのようなデザイン。やはりビジネスライクですが、どこかに趣味のよさも感じさせます。戦後長らく質実剛健といわれてきたプジョーの伝統にそったものといえるかもしれません。
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308も508も、ささやかな演出ですが、GTにはフロントグリルやリアにGTのバッジが付きます。
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プジョー・シトロエン・ジャポンは今後ディーゼル・モデルを多数導入していく予定です。1.6リッターの308アリュールのハッチバックは消費税込みで299万円という積極的な価格ですが、シトロエン・ブランド(C4)ではさらに安い価格設定になります。ディーゼルの魅力、価値を理解する人であれば、とくにプジョー好き、フランス車好きということでなくても、十分選択肢に入るのではないかと思います。そのうえでもともとのクルマそのものの魅力がプラスαとしてあるので、商品力は高いと思います。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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