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スバル・インプレッサに試乗

スバル・インプレッサに試乗しました。比較的なんの変哲もないふつうのクルマの外観で、乗ってみてもふつうのファミリーカーの印象です。ところが走りの性能は非常に懐の深い優れたものでした。


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試乗したグレードは1.6i-Lアイサイト(AWD)でした。インプレッサのハッチバックバージョン、インプレッサ・スポーツになります。外観を見てもわかるとおり、今ではかつてと違いWRXが別の車種になったために、スポーツ色は薄れてはいます。
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このクルマが開発された頃のスバル車のデザインは、ボディのサイドパネルが比較的平面的で、そのためにダイナミックな力強さを感じにくく、優美さにも欠けている印象です。有機的なデザインではなく、いわゆるガンダム的なタイプのデザインともいえそうです。もちろん、このデザインならではの良さはあるわけですが。ちなみにインプレッサのクロスオーバー版のXVの場合、インプレッサと同じこのボディに樹脂製のオーバーフェンダーを装着することで、足腰が力強く見えます。先代のレガシィのアウトバックもそうでしたが、この頃のスバルはオーバーフェンダーを追加したクロスオーバー版モデルでちょうどよく見えるボディ形状を採用していたのかな、と思うことがあります。ただ、ひとつ言えるのは、ボディサイドを平面的にしたために、室内寸法は幅が広くなった可能性があることです。少なくとも先代レガシィに関しては、そういう面があったとスバルの開発の方から聞いたことがあります。
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ボディサイドパネルは平面的ですが、ホイールアーチを強調するデザインを採用しています。流麗さを感じさせるスタイリングではないですが、ホイールのデザインなどによっては、街中で見るインプレッサがなかなか精悍に見えることもあります。兄貴分ともいえる後発のレヴォーグのほうが、精悍さ、スマートさで成功していると思いますが、インプレッサ・スポーツも、意外にやはりスバルらしいというべきかスポーティさを感じることもあります。ちなみに既に発表されている次期型インプレッサは、現行レガシィ同様にあきらかにより流麗なデザインに進化していると思います。
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ちなみにこれが今秋に発売となる新型インプレッサ。曲線が優美になり、立体感のあるボディ形状になっています。
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現行インプレッサの内装は、実直なものです。これもスバルの特徴といえ、ある意味愚直にその真面目さを保っています。もうちょっと洗練されてほしいとも思います。
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加飾などに凝るのは、スバルらしくないかもしれませんが、エアコンのダイヤル類などは、このように仕上げられています。
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参考に、新型インプレッサの内装はこれです。内装もやはり曲面が立体的になって、率直に言って、かっこいいダッシュボード形状になっています。各部を見ると、シンプルの反対を行く、複雑な形状のデザインが目立ちます。それは外装も同様です。現行インプレッサのシンプルな潔いデザインも、よさがあるとは思う次第です。
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現行モデルは全長は4420mm、ホイールベースは2645mmあり、室内スペースは十分なものがあります。また視界が広いのは最近のクルマのなかでは、注目すべきところかと思います。ちなみに新型(北米仕様)は5ドアで全長4460mm、ホイールベース2265mmです。
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さて、乗ってみての印象です。エンジンは1.6リッターのもちろんボクサーユニットで、2.0よりはコンパクトですが、パワフルではないものの、まあ十分なものがあります。水平対向らしいスムーズさは感じられ、回しても不快感がありません。CVTは、スバル独自のリニアトロニックですが、ごく微速域で若干スムーズさに欠けるところがありました。通常はごくスムーズです。パドルシフト付きでMTモードも選択できます。
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一番驚いたのは、足回りの性能です。乗り味としては、ふつうに走っているかぎり、ごく平凡なファミリーカーで、乗り心地は十分よいものの、それほどシャープな足付きではなく、ステアリングもどちらかというとあまりメリハリがないような印象でした。ところが今回、山間地域へと下道を使って往復しましたが、のんびり走った往路は、なにも感動なく走り、まあこんなもんかと思っていたところ、ちょっと空いたのでがんばって走ってみた復路では、目からウロコが落ちました。ラリーのスペシャルステージにでもありそうなタイトコーナーが続くような区間でも、ちょっとがんばってもまったく破綻することがなく、コーナーをクリアしていきます。アンダーステアも露呈せず、4WDのためにアクセルを踏み込んでも最後までよく曲がっていきます。コーナー中に上下に起伏があるようなところでも、よくいなしていき乱れません。町中ではステアリングはむしろダルなほうかと思っていたのが、まったくよく曲がっていきます。異様とも思える懐の深さに、感銘を受けました。
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1.6i-Lアイサイトは、通常モデルがフロントのみのところ前後にスタビライザーを備えており、そのほかパワーステアリングが油圧でなく電動、タイヤが15インチではなく1サイズ大きい205/55R16となっています。2.0だとエンジンが強力ですが、基本は1.6と同様の展開であり、そのため1.6i-Lアイサイトはインプレッサの中では、一応いちばんスポーティな部類の足まわりにはなるようです。ただし、基本的にインプレッサはスポーツ車ではないので、タイヤの銘柄もヨコハマdb E70と、比較的ふつうのタイヤを履いています。このタイヤも乗り味に貢献しているとは思います。
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今回試乗したクルマは、インプレッサの最終版で、マイナーチェンジを重ねて非常に熟成されており、乗り味の評価は、高評価であるとのことです。それにしてもこのバランスのよさ、懐の深さはちょっと驚きました。たとえばひとつにはサスペンションのストロークが長いということもありそうで、広報の方の話だと、他車よりもやはりストロークは長いということです。初代レガシィがWRCで活躍した頃、縦置きエンジンのスバルは、ほかの横置きエンジン車よりもサスペンションまわりの設計が有利だといわれており、ストロークが実際に長かかったかどうかは未確認ですが、車体設計の良さのために、しなやかにストロークするサスペンションセッティングが実現されており、とくにツールドコルスなどのターマックラリーでは、マシンの動きが素直でいかにもコントロールしやすそうで、ランチアやトヨタよりも、美しいテールスライドを披露していました。スバルは懐が深く、乗りやすいのだ、と強く印象づけられましたが、今回いささか場違いながら、意外にもファミリーカーの車種で、そんなことをちょっと思い出す体験をしました。このクルマ、いうなれば、羊の皮をかぶったカモシカという感想です。スバル、侮るべからず、です。
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残念ながら既に新車の受注は終了しており、在庫があれば買えるかという状況のようですが、熟成しきった現行モデルのインプレッサは、なかなか価値があると思います。新型も最初は熟成がどうなのかわかりませんが、感性性能のこだわりを謡う最新スバルのことだから、内容は充実して向上しているとも思われます。いずれにしても、インプレッサは魅力を秘めた貴重な国産車だと思う次第です。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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