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オートモビル カウンシル 2016

2016年8月5〜7日に、幕張メッセにてオートモビル・カウンシルが開催されました。

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会場は東京オートサロンのほか、以前に東京モーターショー会場にも使用されていた幕張メッセ。モーターショーやオートサロンに比べれば会場面積は広くありませんが、回を重ねて規模が大きくなっていくことが期待されます。展示車両もブースも、時間をかけて見て、人と話したいと思うようなところばかりという印象でした。
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ワクイミュージアムのブース。歴史的なベントレーやロールス・ロイスがずらりと展示され、迫力がありました。左のクルマはレストア中のロールス・ロイス・シルバーシャドー。車両の左半分と右半分がレストアのビフォーアフターの状態になっていますが、この手法の車両展示はかつてパリのレトロモビルで登場して話題になったのを見たことがあります。オートモビル・カウンシルはそのレトロモビルやドイツのテクノクラシカ・エッセンを参考にしているようです。
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国内外の自動車メーカーの展示も充実していました。スバルは水平対向50周年ということで、その第一号車のスバル1000と発売間近の新型インプレッサを、それぞれのエンジンとともに展示、さらにスバルのルーツである中島飛行機時代の栄エンジンの実物が展示されて、なかなか重みのあるブース展示でした。オートモビル・カウンシルは自動車文化を日本に根付かせたいという思いをもって始められたとのことです。パリのレトロモビルは、もともと古いクルマを楽しむのが好きな人々が集まって始まったイベントだと思いますが、近年自動車メーカーの参加も充実するようになっています。自動車メーカー主導ではなく、ある意味では古いクルマを楽しむ文化の潮流にのっかって、各メーカーが自社の歴史(ヘリテージ)を宣伝に使うことに積極的になってきている、というのがヨーロッパの自動車界のとくに近年の傾向だと思います。日本の自動車メーカーはヨーロッパの古参メーカーに比べれば歴史は短いですが、近年台頭する東アジアの自動車メーカーなどに比べれば歴史は十分に長いといえ、国際レースなどでも栄光の歴史を刻んでいます。せちがらい見方をすれば、日本のメーカーは過去のヘリテージをどんどん宣伝することが急務、と思います。
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それはともかく、パリのレトロモビルではごく古いものが実にいろいろ展示されており、妖しく深い雰囲気を、イベントに与えています。戦前のものや場合によっては19世紀のものなども展示されるわけですが、そういう古い年代のものを自分の直接の興味の対象にしているクルマ好きは必ずしも多くはないわけだとしても、会場にそういう古いものがあると、場に厚みができて雰囲気が変わってくるかと思います。レトロモビルでは軍用車やヘリコプターなど必ずしも自動車でもないものも展示されたりしますが、クルマに関係のあるものも含めてバラエティ豊かに展示物があると、おもしろいものです。栄エンジンを展示していたスバルのブースは、そういう意味でなかなか「文化」の厚みを感じさせるコーナーになっていると思った次第です。ブースがシンメトリカルな展示になっていたのも、水平対向エンジンに合わせてのことかとも思いましたが、なんというか遊び心の姿勢がこういうイベントではあるといいように思う次第です
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マクラーレンが本邦初公開となる570GTを発表。デザイナーのマーク・ロバート氏(写真手前)が来日し、記者発表会では570GTのデザインについて説明しました。マクラーレンのブースには1990年代の伝説的なスーパースポーツ、マクラーレンF1も展示されていました。日頃あまり見る機会のない世界最高峰マクラーレンの先端的な世界観を間近に感じることのできる貴重な場となっていました。
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日本の自動車メーカーでは、マツダが力を入れて展示をしていました。自社のヘリテージの重視やデザインへのこだわりなど、まさに文化的に洗練されたクルマづくりが注目される近年のマツダですが、このイベントに共鳴するところがあったのでしょう。ブースのメインには本邦初公開となるMX-5RFを展示していました。写真手前はマツダのデザイン部門を率いる前田育男氏。
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マツダのブースは、デザインを見せることがテーマで、ブース横にコスモスポーツなど過去のモデルが展示されていたほか、ブースの裏側では過去のデザイン開発のデザインスケッチやクレイモデル、貴重な設計図などが展示されていました。ちなみにブースそのもののデザインも建築家の窪田茂氏に依頼されたもので、今のマツダのこだわる世界観が表現された空間となっていました。
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レストアの専門店オールドボーイの展示。ジャガーEタイプなどが展示されています。ジャッキアップされたりして雰囲気を演出していました。その奥にはL.F.A.の展示ブースが見えていますが、日本ではちょっと珍しいフランスのシムカ1100が展示されています。今はなきシムカは、もともとはフィアット系メーカーで、1960年代のシムカ1100はフィアットの技術を活かして横置きエンジン式FWDを採用した傑作大衆車でした。こういった、日本においていささか通好みというべき大衆車の展示もあるのが、ちょっと変な言い方ですが、さすが"文化的"なイベントならでは、と思います。
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シトロエンSMとDSが並ぶシトロエン専門店アウトニーズの展示。日本でのクラシックカー展示というとフランス車は隅に置かれた存在であることも少なくないですが、今年たまたまなのかどうか、今回の展示は英独仏のクラシックカーが比較的それぞれ充実して見られた印象です。(アメリカ車が目立たなかったのが残念といえば残念ではあります。)
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こちらはヴィンテージカー専門店のブレシアと、その隣にイタリア車を得意とするガレージ伊太利屋の展示。手前が1933年のMG Lマグナ、奥はオースチン・セブンのスペシャル。どちらも、いかにも走ったら楽しそうだと思わせるものがあるようでした。日本のカーマニアになじみのあるのはやはり戦後のクルマであり、とくに1960年代以降が中心的で、モータリゼーションの普及した年代を考えるとそれはもっともなことですが、オールドカーの世界がせいぜい1960年代から1980年代の間ぐらいとなると、あえていえば底が浅くなってしまうわけで、戦前まで興味の対象が広がると、がぜんバラエティの広がりが出て、おもしろくなるとも思います。
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自動車趣味の店ロンバルディのブース。自動車の古書やカタログが売られています。自動車を文化というならば、その古本はぜひとも充実してほしいものです。もちろん新本も充実してほしいものですが・・。
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こちらはイラストレーターの溝呂木陽さんのブース。イラストの作品のほか、細部まで作り込まれたプラモデル完成品も並べられていました。ブースをちょっとレトロモビルっぽくしてみました、とのことでしたが、ミニカーやパーツなどのお宝がところせましと並ぶこういう感じがパリのレトロモビルの場合の魅力です。ほかのブースでもそういう雰囲気が漂っているところはありました。ある意味自動車の展示よりも、パーツやミニカー、カタログを漁りに行くのが楽しみだと、レトロモビルに関してはよくいわれます。
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こちらもアーティストの集まったブース。壁面に並ぶイラストは、馬場和美さんの作品。ポスターカラーで描いたように見えますが、デジタル印刷されたもので、値段が気軽に買える感じなのが魅力です。下に小さく見えるのは秋葉征人さんの作品。チョロQに似たデフォルメをした小さなモデルですが、窓やボンネットが開くなど、極めて精緻で思わず魅了されてしまいます。
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輸入車ブランドでは、ボルボもブースを出していました。ここに見える展示車両は1960年代のP1800と最新のS60のスポーツモデルのS60ポールスター。ボルボは、古いモデルの整備を行うクラシックガレージを横浜の店舗内に開設し、そんなことから今回の出展もあったのかと思います。
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FCAジャパンは、アバルト124スパイダーをジャパンプレミアとして展示。アバルトのデザイントップのルーベン・ワインバーグ氏が記者発表会でプレゼンテーションを行いました(写真左)。ブース内にはもう1台が、1970年代のフィアット・アバルト124と並べて展示され、新旧124が揃いましたが、そのほか新旧の500アバルトも並べて置かれていました。この場合、展示がブランドのヘリテージをうまくアピールするものになっていた、というよりも、そもそもフィアット(アバルト)の市販車のラインナップが、ヘリテージを活用したものであるわけです。ミニやVWビートル、DS(シトロエン)をはじめ、そういったクルマづくりの展開は世界的な傾向になっています。
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トヨタはカローラの50周年の展示を行いました。記者発表の席では歴代カローラの開発主査も駆けつけ、カローラの日本と世界での歩みを比較的くわしく説明していました。総生産台数でVWゴルフを凌ぐ世界的大衆車であり、まさに日本が生み出した「文化」という存在です。自動車文化といっても、高価なクラシックカーやスポーツカーに限るものではなく、本当は軽自動車とか、商用車さえも出展されていてもよかったのではないかとも思います。トヨタのこの展示はしいていえば優等生的といえなくもないくらい立派なもので、パネル説明なども豊富で、展示内容は充実し、イベントに重みを与えていたように思います。
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古いメルセデスの専門店、シルバースターのブース。手前はAMG製の300SEL6.3ベースのレース車両のレプリカ。ドイツのメルセデス・ベンツがレストア車両を所有しているはずなので、最初それかと思いましたが、これはシルバースターが独自に製作した車両です。昔のカーグラフィック誌のレースレポートにこのクルマを正面から大写しした写真がありました。
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コーンズのブース。赤いフェラーリが4台展示されていました。レトロモビルでは1950〜60年代のフェラーリが、ときには発掘されたばかりでレストアも手つかずのような状態で展示されたりして、やはり彼の地の「自動車文化」の厚みを感じさせますが、なにはともあれ日本でも花形のフェラーリはイベントに欠かせない存在です。
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ヴィンテージ宮田自動車のブース。日本車のクラシックカーこそ日本発のイベントでは大事です。近年日本車の古いクルマも価格が高騰し、投機目的で買われるのだといわれますが、海外へ流出するクルマも多いそうです。国内の現存車両が空洞化するとその市場(つまり文化・・)も枯渇するので、ショップではなるべく国内に車両がとどまるように気をつけているとのことでした。ヨーロッパ車のクラシックカーが日本よりヨーロッパに、豊富に現存するのはあたりまえのことで、それでさえ残念なことと思っているところに、日本車までが海外へ流れて行ってしまっては、日本の「自動車文化」も万事休すです。
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それとは別に、古いクルマに高い自動車税をかけることが、古いクルマを根絶やしにする一因となっているといわれます。自動車メーカーは新車を売ることが第一ですが、ヘリテージを尊重することの重要性にもっと目を向けてほしいと思います。そのうち家電製品と同じ運命をたどることにならないかと心配にもなります。
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クラブのブースもいくつかありました。これはブガッティ・クラブ・ジャパンのブース。ブースに車両が置かれて、ブース内でクラブ関係の人々が談話しているのは、レトロモビルなどでもおなじみの光景です。もちろん自動車メーカーの参加は、大きな支えになることですが、愛好家あっての自動車、という側面もあることだから、うまく支えあって(事実上は自動車メーカーが支える形で?)、いずれにしても来年以降もイベントが盛り上がっていってほしいと思います。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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