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アウディA1スポーツバック1.0TFSIに試乗

アウディA1 スポーツバック 1.0TFSIに試乗した印象です。新しい3気筒エンジンを搭載しています。

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ワインディング路を中心に、ごく短時間の試乗でしたが、クルマ全体の上質感と、軽快な走りが印象的でした。試乗車の車両本体価格は269万円で、それ相応の価格ですが、サイズから考えると、質感の高さはこのクラスにおける富士山のような存在と思う次第です。ちなみに廉価モデルでは249万円で、A1としては従来より大幅に安くなっています。

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A1デビュー当初と微妙に顔が変わって、目つきが少しシャープになり、シングルフレームグリルはわずかに幅広になったようです。最新のアウディの顔の傾向は、目つきをシャープにして少しつり目ぎみにし、アウディ特有のシングルフレームグリルの形状を6角形にして若干横幅を強調する方向のように思います。このA1は小さくても高級車らしい大きなグリルですが、ボディカラーのせいか、それほどは目立ちません。クルマの大きさもコンパクトです。

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近年ヨーロッパではグレーが流行しているという話も聞きますが、「ナノグレーM」という名称のこのボディカラーは、いかにも"ドイツ"といいたくなる色合いです。ボディ全体のデザインも、硬い感じの面や線で、"ドイツらしさ"があると思えます。もちろん微妙なゆらぎを注意深く入れられて美しさ、爽快さを醸し出しているのが、現代のアウディ・デザインですが、印象としてはやはり硬くシャープなものを感じます。

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内装はアウディの上級モデルに比べればシンプルですが、やはり上質感があります。スイッチ類などの操作感も精緻で、高級車のもの、という印象。4つ並ぶエアコン吹き出し口は丸形で、若々しさがありますが、同じように丸形送風口を並べるメルセデスのAクラスなどと比べると、全体に精緻で整然としたデザインで、アウディらしいいわゆる"モダンデザイン"の流儀を守っていると感じます。

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メーターもまじめなドイツらしいデザインで、機能主義を感じますが、同じグループのVWほどのストイックに徹したデザインではなく、それに比べればですが、プレミアムブランドらしく適度に飾りっ気がある印象で、スポーティさも感じさせます。

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2015年5月より新たに搭載された3気筒エンジン。排気量999ccのTFSIの直噴ターボで、95ps/16.3kgm。最大トルクは1500〜3500rpmで発生し、パワー、トルクとも十分です。走った印象では、音の種類としては、その気で聞けば3気筒の音、と聞こえましたが、意識しなければ別に気にはならず、振動も音も不快なものはほとんど伝わらず、高級ブランドにふさわしい処理がされています。回した時の音は気持ちよいものです。

乗り味はやはり上質なクルマらしいもので、クルマ全体が緻密に仕立てられている印象です。乗り心地は快適でした。意外にサスペンションの仕立てはしっかりしている印象ですが、タイヤにソフトさがあり、低速でも硬さを感じません。
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以前に同じコースをVWポロで走りましたが、あくまで記憶に基づく印象ですが、A1のほうがロールが少なく感じました。コーナリングはどちらも正確にラインをトレースしますが、A1のほうがタイヤは鳴きました。安定感があるので追い込みやすかったのかもしれません。試乗車では、ポロがコンチプレミアムコンタクトに対し、A1はコンチエココンタクトで、サイズは両車とも185/60R15です。
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215/45R16を履く上位モデル(Sport)のほうがよく走ると思いますが、乗り心地は185がよいだろうと思います。今回の185を履いた試乗車は、タイヤが控えめだとはいえ、それでもそこそこの走り方ならば、スポーティカーといってもよいようなシャープな走りをする印象でした。
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3気筒の軽さが、軽快感につながっており、クルマとしてのバランスのよさも感じさせます。4気筒の1.4TFSIと比べて100kg軽い1140kgの車重が効いているうえ、とくにノーズ部分が軽いので、山道でよさが出るようです。

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リアの荷室スペースは十分にあります。それにしても見た目からも、ボディがいかにもしっかりつくられている印象です。ちなみに全長は3985mmです。

3気筒エンジンは、最新の輸入車ブランドの、とくに日本に入ってくるものなどは、悲壮感を感じることもあまりなく、その軽さ、効率の良さをメリットとして享受できます。同時に乗り比べると4気筒のほうが洗練されていることに気づくこともありますが、ことによると今や"大きく重い"4気筒は、高級車むけのマルチシリンダー、といわれかねない時代になりつつあるのかもしれません。とくにこのA1は、エンジンだけでなく、車体もダウンサイズした高級車、といえるようです。上を見れば、A3からA8まで、さらに高級になっていくわけですが、エンジンが3気筒、全長が3m台でも、つくり方しだいで高級車にもなりうるということに、あらためて感銘をうけました。


(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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