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JAIA輸入車試乗会(マスタング、アウディS1、ジュリエッタ、キャデラックCTS)

今年の2月に行なわれたJAIA(日本自動車輸入組合)の試乗会に参加しました。乗ることができたクルマいくつかかについての感想です。


【フォード・マスタング50 Years Edition】
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新型マスタングです。乗ったのは黄色の車両でしたが、これがダークグリーンだったらブリット刑事の愛車だな、と思ってしまう雰囲気です。先代も初代マスタングへ回帰したデザインでしたが、最新型はより筋肉質で少しクラシカルなカーブのデザインになりました。とくにノーズのあたりの、グリルが突き出してライトが後方に下がった形状などが、ブリット刑事の68年型を思い起こさせる気がしました。プレス資料には、50年間の歴代マスタングの写真の中に、1台だけ"ブリット刑事の68年型"が挿入されていました。ちなみにブリット刑事とは、カーアクション映画の"最高傑作"ともいわれる「ブリット」で、スティーヴ・マックイーンが演じた役です。

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内装も初代マスタングのデザインのモチーフをとりいれています。先代よりもデザイン処理が洗練されたような印象です。この6代目相当のマスタングは、新たに世界で販売されることになりました。それもあってか、クルマとしての洗練度が、世界標準的にまで高まったようです。リアサスがリジッドからマルチリンクになり、十分落ち着いた挙動と感じました。
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全長は4790mmあるので、日本の標準からすれば少し大柄ですが、タイトな山道でも苦にはならない感じでした。電動パワーステアリングを「スポーツ」モードにするとクイックになり、軽快にコーナーを回って行くことができました。

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リアも初代マスタングのデザインを継いでいます。エンジンは、予備知識なく走り出して、ああ6気筒は野太い音がするな、などと思ったのですが、あとで4気筒と知りました。多少音のチューニングをしているそうですが、4気筒にしては、迫力が十分にありました。V8やV6を乗り継いできたような人からすれば、「これは違う」となるかもしれませんが、十分"アメリカン"なものを感じました。思い返せば「V型」の音とはたしかに違いましたが、もとをたどれば初代マスタングの6気筒は直列6気筒だったともいえます。
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なにより、2.3リッターながら314ps(231kW)、44.3kgm(434Nm)もあるから、力強さは十分です。ノーズは相変わらず長いクルマですが、前が軽く、洗練されたハンドリングを身につけているようですから、今や4気筒こそがスマートでよいのではないかとも思います。

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ちなみにこれがブリットと同型の68年型マスタング。こうして見ると意外にグリルが突き出してないようにも思えますが、当時の感覚からするとシャープなノーズで、筋肉質なフェンダーラインというイメージだったかと思います。SNSの使用状況などからして、フォードは、マスタングの人気が世界的であることを確認したそうですが、そのうちの何%かは、映画「ブリット」を見た影響が含まれているのではないかなどと想像します。マスタングにとって、「ブリット」は貴重な「ブランドのヘリテージ」です。日本人の感覚からすると、スポーティーカーならもう少しタイトな大きさだったらよいですが、マスタングほどカーマニアの気持ちを刺激する存在もないもので、より近代的になりヨーロッパ車にも通じるような走りを味わえるクルマになったことで、食指を動かされる人も多いかもしれません。

【アウディS1】
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純粋に走りを楽しむなら、世の市販車の中で最右翼の存在と思われるのが、アウディS1。残念ながらその性能を目の当たりにする機会はありませんでしたが、とにかく速く、走りについては一級品という感じがありました。なによりこのサイズですから、俊敏に動くことは間違い無さそうです。VWポロのサイズのボディに、2リッター・ターボを搭載し、4WDのクワトロにしてしまったクルマです。アウディの末弟のクラスとはいえ、全長4m弱あり最小サイズのクルマではないですが、TFSIエンジンはゴルフGTI と同級の2リッターなので、231psもあり、おまけにGTIにない4WDです。かつての1980年代のWRCを席巻した最初のクワトロは、現在のA4/S4に相当する車格でしたが、その技術の進化版を小さなサイズに詰め込んでいます。現代のWRCは、VWポロのサイズで戦われていますから、S1はまさに市販車版ラリーカーという趣きです。

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おまけに変速機が6MTです。スペックから考えてこのクルマは、ラリーのようにとにかくかっとんで走るためのクルマかと思っていましたが、しかしながら、乗った印象はそうではなく、非常に大人の洗練と安定感がありました。ふつうに乗れば静かだし、ステアリングを握った印象も上級のアウディのような重厚感があり、足回りも洗練されています。やはりアウディらしく、4WDや高出力エンジンを積むにあたってつくり込みがしっかりされているようで、ほかのアウディ同様の上質感を身につけていました。もちろん、とばせば現代のクワトロは、FFでもFRでもかなわないような完璧なコーナリングをこなすのだろうと思います。

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外観も、比較的抑えめの仕立てです。正面から見るとほかの「S」と同様の仕立てで、排気管も4本出ていますが、大人の感じを失っていません。ふつうに乗るぶんには、すべてが上質であり、ただし速く走ろうとすれば、とくに日本のようなタイトな山道が多い環境ではほかのどんなクルマよりも速い、というようなクルマではないかと思います。走りの性能も、上質感も一流のクルマですが、ただひとつポイントになるのは、サイズが小さいということです。それをあえて選ぶとすると、基本は大人の落ち着きを好んでも、気はとにかく若い、ということでしょうか。小さな子どもがいても、ふつうに走っていれば、ぐっすり車内で眠れそうな気がします。

【アルファロメオ・ジュリエッタ】
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S1に比べるとふつうのクルマですが、イタリアのアルファロメオならではのクルマでした。乗った車両は、「ジュリエッタ・ケンオクヤマ・スペチアーレ・ロッサ」。KEN OKUYAMA CARSとのコラボレーションで、特別装備を施されたモデルです。この角度から見てわかるところでは、ホイール、ボディストライプなどが特別のものです。ちなみにこのボディストライプ、ボディサイドのプレスラインに沿って入れられていますが、プレスの頂点の線に沿っておらず、抑揚するラインの美しさが強調されるように、少しずらして入れられています。ケン・オクヤマ氏は、元ピニンファリーナに在籍して、フェラーリ・エンツォを手がけたことが有名ですが、アルファロメオとも縁があり、そんなことからコラボレーションが日本で実現されたとのことです。

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よく見えませんが、Cピラー部分のエンブレムもケンオクヤマ車の特別装備です。これは金属加工で有名な新潟県燕市の、「磨き屋シンジケート」によって磨かれたものだということです。近年のアルファは、伝統の盾型のグリルにするため、現代のクルマでは難しいといわれることもある縦長のグリルを採用しており、もはやレトロとはいえないかもしれませんが、インパクトがあります。しかりリアに関しては、このジュリエッタはスタンダードな感じがあり、モダンでありながらスタイリッシュなデザインと思います。

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この車両のベースは、ジュリエッタ・スポルティーバです。排気量1.4リッターのターボで、上級モデルと比べればおとなしいエンジンですが、フィアット・グループ(FCA)の誇る先進技術マルチエアを採用しています。乗ってみての印象は、外観と同じで、スタイリッシュな内装でありながら、全体的に安心感があるクルマ、という感じでした。ごくふつうのハッチバックとして接することができるクルマながら、イタリアならではの、スタイリッシュさがある、という印象です。アルファというともう長いこと、気持ちで乗れてしまう、つくり手も気持ちでつくっている、というようなある種ステレオタイプ的イメージがありましたが、このクルマは、メカニズムでも先進的なものを盛り込んでいるようです。余談ながらアルファの"兄弟分?"のフェラーリが、今年F1で俄然速くなっています。複雑なハイテクのハイブリッド・システムが導入された現在のF1ですが、そこで速いというのは、フィアット・グループの技術は今すごくよいのか、ひいてはアルファロメオもか?と、まったくもって短絡的ですが、想像してしまいます。

【キャデラックCTSプレミアム】
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このクルマは、マスタングと同時試乗でしたが、マスタングがなかなか洗練されていると思った直後に乗り換えて、タイプも違うので当然ではありますが、ずっと洗練されていました。「アメ車でありながら洗練‥」、というフレーズは、かれこれ30年ぐらい自動車雑誌の試乗記で使われていると思います。1970年代なかばぐらいから、アメリカでは、メルセデスなどのヨーロッパ高級車に刺激されて、ヨーロッパ流のクルマづくりが目立つようになりました。ひたすら大きく、おおらかなクルマだったのが、足腰のしっかりしたクルマへ変わり始め、それが今に至るまで進化し続けているように思います。まあ、プレミムカーでは、ヨーロッパ車、なかでもドイツ車がここ数十年、世界で圧倒的に強くなり、アメリカ車もそれに影響されたといえます。キャデラックもそのひとつで、近年は後輪駆動を採用し、ベンツやBMWにも対抗できるような内容をもつクルマが増えている印象です。CTSは、非常に滑らかで、しっとり、上質な乗り味でした。以前にATSでもそれは感じましたが、車格が上だからか、さらに、という印象でした。もはやヨーロッパ高級車と同じ土俵で評価して、好みや世界観の違いだけで選べる時代なのかもしれません。世界観というか、趣味性についてはヨーロッパ車とあきらかに違うものが、とくにキャデラックの場合濃厚にあるように思えます。

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外観デザインは、キャデラックらしいクリーンなボディサーフェイス、キャデラックらしいグリルデザインなどとともに、ドイツのたとえばアウディなどと似たようにも感じられる、ひきしまったタイトなデザインで、運動性能のよさを外見で予感させます。そしてなによりほかの高級車には似ていない、キャデラックの独自性があると思います。ただ、内装デザインは、ヨーロッパ高級車のモダンかつ豪華なものと比べて、少し洗練さに欠ける気がしました。アメリカ人のねらいが、いまひとつわかりませんが、ただ、先進性を表現しようとしているところがあるではないかとも思います。写真では表示がオフになっていますが、メーターはデジタル式で、いろいろ機能満載のようです。透明パネルに情報を表示するヘッドアップディスプレイは最近のクルマに増えていますが、CTSプレミアムはそれが標準装備で、フロントウィンドウに直接表示させるので、具合がよいと思います。このクルマは、CTSプレミアムなので、4WDでしたが、乗っていてそれはわかりませんでした。エンジンは4気筒ターボの2リッターですが、4気筒の悲壮感はまったくなく、パワーも十分でした。276ps(203kW)に、40.8kgm(400Nm)です。

(レポート・写真:武田 隆)

リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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