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東京オートサロン2015(トヨタ、レクサス)

1月9〜11日に幕張で開催された東京オートサロン2015を見た印象です。目についたブース、展示車両などについて書いています。


【トヨタ】

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トヨタは、昨年同様、ラリー車をはじめとして、モータースポーツ車両を広いブース内に数多く並べていましたが、そのなかには、今話題の燃料電池車、MIRAIもありました。昨2014年に全日本ラリーの一戦で、先行車として走行した車両です。それをドライブした豊田章夫社長は今回は来場なしとのことでした。後方のステージではトップドライバーが壇上に上がっていますが、その横には章夫社長の似顔絵パネルが見えます。

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そのMIRAIの室内。ロールケージとシート、ステアリングが変更されている程度のようでした。シートはリアもバケットタイプでした。燃料電池車はモーター特有の低速からの大トルクがあり、ボディ剛性も高いので、かなり走れるのだそうです。以前にMIRAIの開発主査の方にちょっと話を伺ったところ、マウントを介してエンジンを搭載するようなことがなく、左右を結ぶクロスメンバーが直結されているなどのため、剛性が高いそうです。燃料電池スタックもガッチリと固定されて、剛性アップに貢献しているようです。ちなみにシャシーはトヨタのMCプラットフォームと呼ばれるプリウスなどと同じタイプのもので、これは燃料電池車ゆえの後部のスペース確保のために、リアサスがトーションビーム・タイプである必要から選択されたものです。

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さりげなく置かれていた、発表前の新型アルファード/ヴェルファイア。style LBという車名でしたが、LBとはLe Bordeauxの略で、ボルドー、つまりフランス高級ワインをひとつのイメージとしたカスタマイズとのことです。

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その室内。革を多用して、デラックスに仕立てられていました。これもフランスの高級をイメージしたそうです。"フランスの高級"のなかでも、少しクラシックなものを意識しているようで、ゴージャスです。

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これはトヨタの社内における、トヨタ技術会の活動として製作されたモデル。会の歴史は古いそうですが、2010年から車両製作活動を始めて、今年はこれが展示されました。車両製作には、開発の各部門のスペシャリストが集まるそうですが、昨年はMR-SベースのEVで、今年のこのクルマはヴィッツ・ベースです。それにしてもこの顔つきは、個性的な顔が多い最近のトヨタ市販車と比べても、さらに個性的です。

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ブースの中心的なスペースに置かれていたのは、GAZOOレーシングの車両2台。その1台は昨年のニュルブルクリンク24時間に参戦したレクサスLFA。来場者が自由に近づいて中まで覗けるような展示でした。
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会場で、ちょうど2年の期間が終わったという若いスタッフの方に話を聞きましたが、GAZOOレーシングは、トヨタの社内の各部署から2年という期間で、人が集められてチームを形成するのだそうです。ニュルブルクリンク24時間は、ちょうどルマン24時間と同じ頃に開催されますが、ニュルブルクリンクのほうが、PR面で影響力の大きいルマンよりも、同行するスタッフが大所帯だという話を以前に聞いたことがあります。今回話を聞いて、なるほどそういうことがあったのかと思った次第です。
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GAZOOレーシングの活動は、クルマづくりのモチベーションを育むというねらいがあり、レース車両製作やレース活動全般を通じて、いろいろなことを学ぶ機会になるということです。チームに抜擢されたスタッフは、現地で、ルマン向け部隊であるドイツのTMGスタッフと交流する機会もあるようです。その中には、TMGの前身で、WRCでの黄金時代を築いた、TTE時代からの大ベテランスタッフもいて、生の言葉をかけられることもあるらしく、それは心高ぶることであったそうです。クルマへの情熱が育まれる場がここにはあるのだなと思った次第です。

【レクサス】

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レクサスのブースは、トヨタ関係のブースが集まっていたところとは、離れた別の建物にありました。展示の車両は、開発中のレクサスRC FのGT3用レース車両です。レクサスは昨年の展示では、非常になんというかオートサロン的な世界感でしたが、今年は同じ白一色でも少しアートが入ったような展示になっていた印象です。会場の喧噪を消すような本物の吸音材に囲まれたスペースには、ヘッドフォンが天井から吊り下げられています。ヘッドフォンに流れる音楽は、オランダ出身のSick Individualsの制作曲で、ブースのデザインはB2Engineの及川晃氏とのことです。
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ある種骨太のクルマ愛好家からするとピンときにくい展示かもしれませんが、そこはレクサスがあえて世界観を提案しているものと思われます。レクサスは、アメージング・イン・モーションをキーワードに、レクサスのクルマとしての楽しさを伝えるPR展開をしており、アナクロニズムにはならずに、なんというか文化的に洗練された手段で、レクサスの魅力を伝えようとしているように感じられます。レクサスはTV CMも、クリエイティブなもので、イギリスのCHI & PARTNERSという広告制作会社に制作を依頼しているとのことです。

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昨年の展示マシンは国内レースGT500クラス用のマシンでしたが、今回はGT3クラスのもので、基本的には国際レース向け車両です。GT3車両はスーパーGTでも走れますが、やはりヨーロッパその他の市場を意識したプロジェクトのようです。レースではまず一応メーカーとして車両を走らせるそうですが、ねらいは欧州のカスタマーチームにたくさん使ってもらって、存在感を高めることであるようです(その後、初年度2015年は日欧で3台供給予定と発表されました)。
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レクサスはアメリカではおおいにブランドを築いていますが、欧州はそうでもないようです。ブランド構築にはレースだけが大事ではないですが、レクサスのライバルであるアウディやBMWなどは、レースを活用しており、とくにアウディは近年めざましいものがあります。ルマンへはトヨタ・ブランドで参戦していますが、これはレクサスでやったほうがよかったのではないかという声も聞くことがあります。
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そのあたりをブースで、レクサス・インターナショナルのブランドマネジメント部門のスタッフの方に聞いたところ、レース活動はやはりレクサスにとって大事だと考えており、予算も計上しているとのことです。レクサス・レーシングという名でレース活動のPRを強化するようになったのはここ最近のことで、昨年のオートサロン展示はその契機になったようです。ただ、トヨタのグループ内には、トヨタ・レーシングと上記のGAZOOレーシング、それにレクサス・レーシングの3つがあり、レクサスとしてどのカテゴリーがよいのか、いろいろ検討しているとのことでした。レクサスだけ考えればルマンはベストのようにも思えますが、とくにヨーロッパ市場で訴求するにはGT3はよいのかもしれません。
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ライバルのBMWやアウディは、歴史があり絶大な実績もありますが、レクサスはまだ新興の存在といえます。レクサスは、世界においては、レースに関してはこれから始まるところだし、ブランド構築もアメリカなどを除けばやはりこれからというところかと思われます。北米でのブランド設立以来約25年はたつわけですが、欧州の並みいる高級ブランドに比べれば、まったく若いブランドです。若さと新しさのあるセンスで、PR展開をすることも納得がいくことかと、昨年に続いて独特な雰囲気のブースを見て、あらためて思った次第です。

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ブースにはRC FのCCS仕様車の参考モデルも展示されていました。RC Fは、RCをスポーツ仕立てにしたモデルですが、CCSはさらにサーキット走行を楽しめる仕立てにしたモデルです。白地に銀の筆で書いたようなストライプは、レクサス・レーシングのイメージカラーのようになっています。最初はラメが入っているようでなじめなかったのですが、いろいろ見ているとむしろ洗練されたスマートさを感じさせるようです。
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近年レクサスは、トヨタ・ブランド車同様、スポーツ面も充実している印象です。スタッフの方に聞いたところ、トヨタとレクサスは、基本的には別組織として展開されており、両ブランドに関わっている人というのは、社長だけなのだそうです。

(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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