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トヨタ SAI(サイ)に試乗

トヨタ SAI(サイ)に試乗した報告です。サイは2009年に登場し、2013年8月にビッグマイナーチェンジしています。ハイブリッド専用の高級セダンということに加え、植物由来のプラスチックを内装に使用したことで、環境面で先端を行くクルマとして注目すべきものがあります。"エコプラスチック"の採用については、回をあらためて報告する予定で、今回は実車に試乗した印象を中心に、大幅改定されたデザインについても考察します。



内容は以下の構成です。
(1)【新型サイ誕生の背景】
(2)【注目の外観デザインについて】
(3)【走りの印象】
(4)【内装デザインについて】


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電気駆動と、植物由来プラスチックということで、冒頭にこんな写真を選んでみました。サイはプラグインハイブリッドではないので、電線とは、接点はないのですが‥。後ろの木はおそらく、生きた化石で有名なメタセコイア。

(1) 【新型サイ誕生の背景】

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2013年のマイナーチェンジ時の発表会でのプロジェクター画面。マイナーチェンジ前のサイは、ちょっとおとなしいキャラクターとなってしまっており、とくに外観を大幅に変更して、人をひきつける魅力の面を強化したわけです。最近のあらゆるプレミアムカーがそうともいえそうですが、若い層にもアピールしうる変化であり、とくに新型のサイでは、色気をもたせたことを、少なくとも広告展開では強調しています。画面では、「もてる紳士のパートナーブランド」と定義しています。

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その"色気"の伝達役として起用された女優の真木ようこさん。この発表会時には、複数のベテラン関係者が、あの人は誰だ?などと言っていましたが、大河ドラマであの坂本龍馬のパートナー(夫人)の役を演じるなどの実力派。「もてる紳士のパートナー」としてのアピールがあるだけでなく、龍馬夫人を演じるくらいだから個性派ともいえそうで、サイだからと、うがちすぎかもしれませんが、ある種の新しさを感じさせる女優さんという気もします。
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坂本龍馬夫人は、一物ある非凡な女性として名高いようですが、この新型サイは、従来からのハイブリッドに加え、斬新なフロントマスクのデザインと、植物由来とリサイクル材のプラスチック採用が、大きなトピックスです。ハイブリッドは今やふつうになってしまったものの、ほかにも非凡な先進性をかかえているということで、サイは、一物も二物も(三物も?)あるクルマ、といってよさそうです。
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"新型"の発表会では、サイがハイブリッドであることが、あまり強調されていませんでした。そのうえ登場したサイは、赤をイメージカラーとしており、"環境"、"エコ"を売り物にした色合いとはいえません。そこが旧型と違ってまず面食らいました。ちなみにTVCMのキャッチコピーは、「赤いハイブリッド、SAI」でした。そのCMのBGMも、熱っぽく情念のこもったような曲調で、1960年代にある英ロックバンドがヒットさせた曲を想起させますが、従来型サイの"さわやかなハイブリッドカー"というようなイメージとはおよそ正反対です。
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このクルマの系譜をたどると、プログレという車種に行きあたり、さらに元をたどれば、クラウンから派生してきた、現代のプレミアムセダンといえます。それがこの赤いサイになったというのは、なかなか時代を感じさせます。ただ"本家"のクラウンも、現在、ピンク色をまとうなど、大変なことになっているわけです。サイの大胆なフロントマスクの採用も、クラウンの例のグリルとおそらく同じような「危機意識」から誕生したものと感じられます。トヨタはこのところ、どの車種も顔に非常に凝っている気がします。

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これが、マイナーチェンジ前の旧モデル。エコカーの定番色的なライトブルーで売っていたようです。これは、2009年登場当時のカタログ掲載写真ですが、そのカタログのコピーとしては、「新しい時代の、新しい答え。ハイブリッド、しかもセダン。SAI誕生。才(かど)めく性能と、艶(つや)めく彩りをたずさえて。」とあります。SAIの車名は、才と彩にかけたものとされています。
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2009年に半年早く、当時のエコカーの決定版的な3代目プリウスが登場しており、巷の見方として、サイはプリウスの上級セダン版としてつくられたという印象でした。外観デザインは、プリウスのトライアングルルーフと呼ばれるモノフォルム形状のボディをもとに、3ボックスセダン的にアレンジしたような感じです。ところが、エコカーの優等生らしく、無味乾燥的になってしまった商品戦略がたたったためか、あまり販売成績が芳しくはなかったようです。そこで、大幅なてこ入れをされてビッグマイナーチェンジになった、ということではないかと思います。
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旧型サイは、前から走ってくるのを見たときなど、一見トヨタのふつうのセダンの一車種のようでありながら、妙にボディ表面がのっぺりしたデザインに見えなくもなく、ちょっと違うクルマだなと思うときもあるのですが、それはよほどサイに興味を抱いて見ているからで、存在感としては、やはり弱いものがあります。フロントマスクもプリウスと似ていて、それを元に少しオーソドックスにアレンジしたような印象で、プリウスよりも無難な外観になっていました。グリルも高級感の演出で、とくに工夫もなくメッキ仕上げになっています。

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プリウスは、燃費性能を極めるため、空力形状をつきつめており、トライアングルルーフと呼ぶトレードマークのドーム型ボディをはじめ、ボディサイド四隅のシャープな造形など、先進的な印象に満ちていました。今やあまりに増え過ぎて目には食傷気味な感もなきにしもあらずですが、内外装がかなり先進的であるのは、誰もが認めるところで、その面でわかりやすさがあると思います。

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その面でうまくはまらなかったのが従来のサイで、マイナーチェンジに際して、新型は、ボディ前後のデザインを全面変更しました。

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そして出来上がったのが、このフロントマスクです。グリル形状もクラウンや最新のレクサス車ほどではないとはいえ、かなり大胆ですが、最大の焦点は、左右をつなげてしまった車幅一杯のライトユニットです。

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これは、新型サイのイメージスケッチ。デザインを担当した久保興介さんに、発表会時に伺ったところ、今まではおとなしかったので、新型ではアピールすることが重要だったとのことです。ポイントは、ボディサイドのショルダーラインを前まで伸ばしたことだそうです。この線が伸びていることが新型サイのプレミアムセダンの表現としてのカギと考えられたようです。この線はボディを一周しており、フロントとリアの車幅いっぱいのライト形状もここから発想されたものだそうです。また別の機会に、サイの開発主査の加藤亨さんに話を伺ったところ、従来型のときは、当時の方針でプリウスに似たデザインになったけれど、新型ではプリウスは関係ないものとして、サイとして思うようにデザインさせた、とのことでした。

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もういちど、従来型サイですが、サイドのショルダーラインが、前側はAピラーの付け根あたりで終わっています。この線は、プリウスでは前までいっぱいに伸びており、また、サイの兄弟車であるレクサスHSの場合も、やはりこの線がいっぱいに伸びています。もっとも新型サイはこの付近は、レクサスHSとボディパネルを共用しておらず、独自のデザインです。従来型サイも、こうしてよくよく見ると独特なシルエットですが、プリウスとクラウンとカローラを足して3で割ったようなスタイリングで、やはりインパクトには欠けるとは思います。

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これは、サイが登場する前にトヨタにラインナップされていたプログレ。1998年にデビューしています。新時代の高級車として、「小さな高級車」としてつくられました。まさに当時のクラウンを小さくしたようなデザインで、いばらない大きさということが新しさでしたが、今の目で見ると、まったく古式ゆかしき価値観を体現したプレミアムカーにも見えます。裕福で、品のある、というような年配の夫婦などに、ぴたりとはまりそうな気がします。グリルが伝統的ラジエターグリルで、従来型サイよりは、わかりやすい高級感があります。
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プログレは虚勢をはらない高級車として、高級感が控えめな表現であったように思います。それがサイではエコカーということもあって、さらに控えめになり、高級ということに関して、ストイックになりすぎたかという感じに見えます。
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ストイックなデザインの高級車としては、アウディがありますが(最今の大型グリルは目立ちますが)、アウディはモダンデザインとしての高級、ということで成功しています。サイはその表現が伝わりにくいものだったという気がします。


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これは発表会のときですが、開発主査の加藤さんが壇上に上がりました。加藤さんは、サイの当初からの主査で、サイの前は、プログレにも関わっており、その意味でも、サイはプログレの現代版といえるようです。しかし、従来型のサイはまだプログレの延長上にありますが、この新型サイは、なにか殻が破れています。それだけ激動の時代、といったらおおげさですが、「小さな高級車」は、環境重視の時代に明確に求められる存在でありながら、商業的に成功させるのは、単純ではないということなのかもしれません。
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ちなみに、サイは、当初からハイブリッドありきとして企画されたのではないようで、おそらく途中からプリウスの兄貴分という役まわりがついたようです。ある意味、サイにはプログレ以来独自の道があったのに、プリウスとかハイブリッドが脚光を浴びたおかげで、その本来の道がちょっと乱れたといえるのかもしれません。ただし、環境面で先進的なクルマという役割は、先ほども言ったように、サイは大きなものを秘め続けています。それはエコプラスチックの採用であり、その採用に名乗りを上げたのが、加藤主査であったようです。
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サイは、エコカーの最先端を行く存在でありながら、ある意味それをも含めて、さらに大きな観点から、新時代の高級車の先端を切り開くというか、新しい時代の価値観を探る存在であるようにも思えます。さらに、近年日本市場でもレクサスという存在が同じトヨタ・グループ内にできているので、話は単純ではなさそうですが、サイは実に興味深いことをやっているクルマだと思います。加藤主査は、サイがかわいくてしょうがないとのことでした。

(2) 【注目の外観デザインについて】

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サイを正面から見たところ。基本的には最新のトヨタらしさを感じさせる顔つきです。ライトユニットが左右いっぱいに長いことは別としても、なかなか斬新で、ちょっと挑戦的な顔でもあります。少なくとも安易にカワイイような、温和な目つきでないところが、本来善良であるこのサイの場合、新鮮で、よい感じに思えます。

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幅いっぱいのライトユニットは、かなりの大型部品で、少なくとも昨2013年のデビュー当時、世界でも最大かもしれないとのことでした。開発時に、サプライヤー(KOITO)もはじめは躊躇して、もっと短いのものになりそうだったのが、主査も後押しして、熱心に交渉し、困難をのりこえて実用化にこぎつけたそうです。

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実物を屋外で見ると、ライトが点灯していない状態でも、ライトユニット全体がグリルの一部のように一体的なデザインとなって見え、特徴的なフロントマスクの造形になっています。ライト上方の、ボンネット先端のメタリック調パーツがつや消しのシルバーなのも、先進的な感じに見えます。消灯時、光線の具合によっては、ライトユニットが薄いスモークのサングラスのようにも見え、スタイリッシュです。
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たとえば1960〜70年代のアメリカ車の、コンシールドヘッドランプをグリルに埋め込んだようなのと似た、斬新さを感じます。ライトユニットは大型ですが、ヘッドランプ自体は小さく、奥まって目立たない印象で、深海魚が静かに外界をうかがっているような(?)、独特の雰囲気があります。ライトユニット自体の造形も複雑ですが、それを囲むボディ外板パネルも、とくにライトの目尻付近など、鋭角で複雑な造形になっています。

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夜になって点灯したところ。LEDを使って、車体中央のグリル付近まで細長く光るのは、最近は、ホンダやスズキの軽自動車など、必ずしも珍しくはないようですが、それらはグリルに光る別パーツを付けているような感じで、ヘッドランプと一体のライトユニットとして成型しているのは、サイだけかもしれません。

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正面から見たところ。中央部が光ることは、法規的にはとくに問題がないそうで、車両の両端さえきっちり光っていれば、あとは別にかまわないのだそうです。いわゆる「スモールライト」に相当するものですが、正しくは車幅灯となるようです。

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リアのライトも、同様な意匠です。新型サイの広告展開は、夜の都会を走るものが多いので、夜の写真を数枚撮ってみた次第です。

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リアのライトユニットも、消灯時にデザイン性を感じさせます。リアデッキは比較的高めです。ボディ上屋のグリーンハウスの形状が、クラウンその他の、トヨタのセダンと共通するものを感じさせます。それでありながら、セダンボディの前後をカットして短く抑えているのが、合理的で現代的と感じられます。

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サイは比較的車高が高めで、ボディサイドもフラットですが、フェンダーがふくらんでいることで、走りの力強さも感じさせます。

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横から見ると、ボディ全長に対してキャビンが大きいことがわかります。プリウスのようなモノフォルムボディの前後にセダン的なデッキを短く足したような印象です。そのことで、スペース効率のよさを予感させて現代的ですが、クラウンやマークXなどの、ぜいたくに優美にデザインにしている後輪駆動のセダンと比べると、スマートさでは劣ります。また、サイドのショルダーラインがいちおう前傾のラインになってウェッジシェイプを演出し、前述のとおりそのラインがボディを一周することで、たしかにスマートさが出ています。ただ横から見たボディのシルエットは、いわゆる流線型のような動的な感じのあるものではなく、腰高でもあり、元来はおとなしいクルマのスタイルかと思います。しかし、上にも書いたように、フェンダー部分がしっかりふくらんで足腰がわりと強そうな印象で、アルミホイールのデザインも、これがサイか、というようなGTカー的な精悍なものです。さらに新型のフロントマスクも挑戦的雰囲気で、結果的に、走りも感じさせるデザインになっていると思いました。そして、クラウンやマークXのような、少しぜいたくに大きい古典的なフォルムのセダンよりも、合理的、先進的で、ある種通好みのようです。知的なマニア(オタク?)の心に響くものがある感じです。

(3) 【走りの印象】

ここで、走りの印象を報告します。
車両データを簡単に列記すると、全長×全幅×全高=4695×1770×1485mm、ホイールベースは2700mm、
車重は1570〜1590kg。試乗車のタイヤサイズは205/60R16。
ガソリンエンジンは4気筒で、2.4リッター、150ps(110kW)、トルクは19.1kgm(187Nm)。
組み合わされるモーターは、143ps(105kW)、27.5kgm(270Nm)。
単純に足すと、なんと293psになりますが、システム最高出力としては190psに抑えられるようです。

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今回、広報車をお借りして、合計381km走りましたが、ほとんどが都内の市街地で、いちど首都高速を走ったのみで、一般道でのワインディング的なルートはごくわずかでした。燃費は、おおざっぱに13km/L弱ぐらいで、車両担当の方の話では、だいたいそれぐらいでしょうとのことでした。
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市街地において、乗り心地は、極上のものといってよい印象でした。室内の遮音が充実して静かなこともあり、もちろんボディ剛性もしっかりして、緻密で、洗練された印象です。ヨーロッパ車などで、高速域では角がとれて快適なクルマでも、高速を下りたあとなど、硬くてがっかりすることがままありますが、サイは、ごく低速でも、完璧な印象でした。そのいっぽう、高速域では、直進安定性や乗り心地はよいものの、コーナーではそれなりにロールもするし、標準の16インチタイヤのせいもあるのか、あまりがんばった走りはしたくない感じかなと思いました。ただし、そこそこのペースの走り方でなら、快適に曲がり、基本的に上質な走りのまま行くことができ、走っていることに楽しさを感じます。まさかこのクルマで走り屋を気どる人もあまりいないだろうと思われます。サイのこの仕立ては、日本の交通環境では、現実的には最適解なのかもしれないとも思った次第です。走りや上質感は、多分クラウン・アストリートなどのほうが上なのだと思いますが、クラウンよりもタイトで軽量なつくりが勝って、サイには軽快感があり、全般に好ましく感じました。サイは、日本専用モデルということです。

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マイナーチェンジにあたって、ボディ剛性などの強化が念入りになり、遮音についても充実させているようで、おそらくクラウンあたりに匹敵するかと思われます。走り出してまず、プレミアムカーにふさわしい静かさが印象的でした。グレードによっては、車体前後にパフォーマンスダンパーというものが装着され、車体のねじれや振動を吸収し、操縦性などを向上させるとのことです。

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ただ、トヨタのほかのハイブリッドカーにも言えることですが、モーターアシストがたいへん充実して、燃費性能がよいいっぽうで、モーターや制御系の電気的な音は、比較的あると感じます。発進から加速、ブレーキに至るまで、さすがにトヨタのハイブリッドシステム、THS-IIは、スムースだとやはり今回思いましたが、ただ各車いろいろ細かいところで、ペダルにときおり振動がきたり、ちょっとした音が入ったりすることがある気はします。
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今回サイで少し気になったのは、ブレーキペダルを踏むたびに、ごく小さくカチッという音がすることで、微速域では聞こえるものでした。いろいろな音は個体差なのかどうかわかりませんが、ハイブリッド車の音は、ある意味、これからどうなっていくか興味深いところではあります。サイの場合、電気駆動車ならではのヒューンという音は、高速域でも舗装が新しかったりすると、巡航中に常に聞こえるときもあり、これは新幹線とでもいいたくなるような、高性能っぽい感じのもので、音量も大きくなく、悪いものではないと個人的には思います。ただ、一般的にハイブリッドカーの微速時に聞こえてくるヒュンヒュンうなる音は、心地よいと思えば心地よいし、近未来の音のようである種聞くたびうっとりするような面もありますが、あまり好きではないと思う人もいるかもしれないと、最近考えることもあります。
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モーター/ジェネレーターを2基もつトヨタのハイブリッド・システムは、遊星歯車による動力分割機構により、無段階にギア比を変えるので、CVTのようなリニアな加速感を味わえます。低速域では静かなモーター走行で、ロードノイズその他の音量が増す速度域になるにつれ、いつの間にかエンジンが始動して、動力に加わるというのも、理にかなった駆動システムだとつくづく思います。アイドリングストップからの振動をともなうエンジン始動が通常基本的にはないというのも、やはりひとつの大きなアドバンテージです。サイはプリウスよりもエンジン排気量も大きいので、トルクも太く、加速は非常に力強いものです。フル加速では、それなりにエンジンの音も聞こえます。
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駆動装置は、パドルシフトなどの変速装置はなく、マニュアル的なシフトをすることはできません。ほかのモデルでは、FF車の THS-IIでも、段付きマニュアルモードのものがあるようなので、サイでも設定しようと思えばできるはずです。サイの場合、プリウスなどと同様、シフトレバーのBモードを選ぶと、アクセルオフ時の減速が強めになり、下り坂などで使えます。これは、アクセルオフに対する反応が早くないようなので、ワインディング路などでスポーティな走りに使うには多分不向きではないかと思います。正確なところはわかりませんが、ブレーキを踏んでもある程度までは回生ブレーキが優先的に働くのだとすると、躊躇せず軽い減速には左足ブレーキなどを使えばよいのかもしれません。ただいずれにしても、このクルマで積極的にギアシフト的なことをして、しゃにむに峠を走るようなことは考慮する必要はないのではないかと思います。
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走行モードは、通常のほかに、エコドライブモード、スポーツモード、EVドライブモードが選択できます。スポーツモードを選ぶと、ステアリングが少し重くなってダイレクトなステアリングになり、アクセルに対するパワートレーンの反応がよりダイレクトになります。

(4) 【内装デザインについて】

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内装は、プリウスと共通するタイプの造形です。ある種の未来的なものを感じさせる、ニュータイプです。ただし、プリウスのトリム類がストレートにエコを感じさせる、進歩的でシンプルかつさわやかなものなのに対し、サイは高級感を演出しており、ダッシュボード面がオーソドックスな革模様のシボだったりします。センターコンソールなどは、ちょっと新鮮なパターンとはいえ、基本は伝統的ともいうべき木目調です。先進的ハイブリッドカーらしさがあるいっぽうで、通常のオーソドックスな高級感の演出にもなっているかな、という印象です。
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内装の最大の注目点は、エコプラスチックの採用ですが、それは別の回に報告します。ひとつだけ報告すると、シートの表皮も、試乗車の場合、植物由来プラスチックの繊維を使ったファブリックで、これが非常に繊細な繊維らしいのですが、おそらくその結果、少し密な表面になり、場合によっては通気性に欠けると感じるケースがあるかもしれないと思った次第です。触るとソフトな手触りで、さすがに"植物由来"と思わせるようなやさしさと、高級感があるものと思いました。
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価格は321万〜421万円(新型登場時)なので、高級車というには控えめな価格帯ですが、欲をいえば、木目調パネルなどのデザインが、もう少しヨーロッパ高級車に対抗できるようなデザイン性、先進性、さらなる高品質さがあってもよい気はします。全体にたいへん洗練されたデザインで、造形も十分先進的とはいえ、良くも悪くもいわゆる日本車的な雰囲気があるという印象です。その点では、レクサスのほうが、ヨーロッパ高級車とガチンコで競うようなモダンな内装デザインになっていると感じます。サイは、日本専用車なので、その点は、国内で絶大な実績のあるトヨタが自信をもって仕上げたものともいえそうです。ヨーロッパ趣味に媚を売ってつくる必要もないわけで、サイならではの独自の世界観に挑んでいるのかもしれません。
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デザインや技術に先進性が盛り込まれたサイは、いわゆる"クール・ジャパン"的なものを秘めているようにも思うので、個人的には内装はもう少し特別感のある新しさがあってほしいとは思いました。たとえば自動車業界の外のプロダクトデザイナーなどと協業して、思いきりハイセンスな進歩的デザインにしたりしてもおもしろいのではないかなどとも思った次第です。もっとも、出発点がプログレだとすると、開発の理念さえ新しければ、デザインは別に新しい必要はないのかもしれません。

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車高が確保されており、元来FF車ということもあり、後席居住性は十分と思います。

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これは試乗車とは別の車両で、内装色は「茜(あかね)」です。CMでは、女優さんが、「やわ肌の、あつき血汐にふれも見で‥」と、与謝野晶子の「恋歌」をつぶやきますが、「和風」を取り入れているところが、かえってモダンで現代的です。プログレの日本らしさとは、また別の印象のようです。

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メーターパネルは、あまりおもしろみのないものです。ダッシュのセンターに横長のメーターインジケーターが設置されるプリウスのような先進的な感じはなく、そのかわり、ドライバー重視のように正面にメーターを据えています。

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むしろ先進的なのは、センタークラスター部の操作系です。センターコンソール自体も2階建て仕立てで近未来的です。写真の上に小さく映るのがシフトレバーで、運転操作のレバーを隅に追いやっており、元来シフトレバーがあった位置には、ナビ画面用のコントローラーが置かれます。これはレクサス各車で採用されてきたもののようで、リモートタッチと呼ばれ、従来形のサイからは改良されています。マウスのように見える部分は手のひらを置く台座で、この辺りは、メルセデスなども似たことをやっているようです。
コントローラー自体は、水平に自由に動き、画面上のポインターがアイコン上に来ると、コントローラーにも手応えが来て、アイコン上でぴたりと止まるようになっており、非常によくできています。ただ、ナビの地図上をポインターを移動させるときに、思った位置にぴたりと止められないのがもどかしく、画面の拡大縮小なども、シンプルなダイヤル式のほうが操作しやすいと感じました。動きの設定を調整できる可能性もありますが、まだ改善の余地はあるようには思いました。しかしこういう操作部分に、極めて精緻な最新方式を開発しているのが、トヨタのすごさのひとつのようにも思います。

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最近のクルマでは珍しくないとはいえ、シフトレバーは、センタークラスターの右端に追いやられており、実に小さなものです。シフトパターンの「B」が、減速を強めに効かすポジションです。先述のように、サイはパドルシフトもないので、ギアの選択をすることはできません。クラウンのハイブリッドなどでは、シーケンシャルのマニュアルモード付きの、昔ながらの立派なシフトレバーがセンターコンソールに設置されています。クラウンはFR、サイはFFですが、FFのハイブリッドでもトヨタにはマニュアルモード付きモデルもあるようなので、現状のサイがこのようになっているということは、サイの新時代感覚でもあるのかもしれません。とはいえ、このシフトレバー、走行中はほとんど触ることはないのに、ステッチまで入れて丁寧に仕立てており、ある種シフトレバーへの昔ながらの敬意(?)のようなものもまだ捨てていないのかもしれません。


冒頭に書いたように、サイの新しさには、ハイブリッド専用車の高級車としての新しさ、車体に"エコプラスチック"を採用している新しさ、さらにハイブリッドであることも含めて、新時代の高級車の提案としての新しさがありますが、大幅マイナーチェンジによってとくにデザイン面で大改変した結果、すべての面でそれらが熟成したようです。先進性を適度に感じさせるプレミアム・セダンの、ひとつの完成形のように、今回乗って、感じました。もちろん、まだ試行錯誤と思うところも多々あるし、新しい時代のプレミアムカーとして、いかようにも進化できるのだろうと感じます。これを実際に、しっかり販売していかなければならないのだから、クルマづくりは絵空事ではなく、ただ新しければいいというものでももちろんないわけです。しかし今さらですがハイブリッド機構も含めて、こんな新しさのあるクルマを、大規模メーカーでありながらつくって売っているトヨタは、やはり一物も二物もあるすごいメーカーだと、思う次第です。

回をあらためて、サイのエコプラスチックの採用についてレポートする予定です。


(レポート・写真:武田 隆)

リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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