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マツダ・アテンザの印象

マツダ・アテンザに今まで何度か試乗する機会がありました。デザインを中心に、クルマの印象を報告します。


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アテンザは、スタイリングが人目をひきます。街中で視線を感じるクルマでした。

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アテンザは、まずグリルを決めてから全体のデザインを決めていったという話を聞きました。ふつう8ヶ月ぐらいでデザインするところを24ヶ月かけてやったのだとか。ボンネットの面などスムースで、微妙な美しさがあります。マツダの人の話だと、モデラーが優秀なんです、とのこと。ただ、このボンネット両端には段差があります。

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当初の開発主査を務めた梶山さんに、いちど少し話を伺う機会がありました。デザインについて感想を言ったところ、上記の段差のデザインがあったために、歩行者衝突安全の基準を満たすよう工夫した、と教えてくれました。写真はボンネットのヒンジの部分と、その前方部分ですが、衝撃を受けた際につぶれて衝撃吸収するようになっています。

梶山さんの話では、マツダは皆クルマ好きなので、デザインに関しても、エンジニアもデザインに意見があるというか、興味を示すのだそうです。開発中には、デザイナーもクルマに乗ってクルマのねらいを理解してもらうよう、泊まりがけで意思疎通を図る機会を設けたといいます。「スタイリング」と「走り」を合わせることにこだわったわけです。その走りとは、ステアリングを切り込んだときに、スッとそれだけスムースにロールするような走り、などと、そのときの説明でしたが、後日乗って、なるほどと思った次第です。先に出たCX-5よりもアテンザのほうが、サスのストロークが短い分、それがむずかしかったとも聞きました。走りについては、後半で簡単に報告します。

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アテンザは、実に美しいフォルムです。このラインができるのは、おそらく車体が大きいからということもあり、全長は4860mmあります。アテンザの主要市場として北米があります。

低く優美なラインのセダンというと、とくに近年のジャガーなどが思い浮かびます。マツダとしては、1990年代にユーノス500やセンティアなど、少しネオクラシックで、優美なデザインのセダンをつくっていたことがありました。その後フォードの影響が濃かった時代に、デザインが少し単調になった感もありますが、また近年ちょっとネオクラシック的なデザインが復活したかなという印象です。ちなみにジャガーも、フォードの影響を脱している今、また攻めたデザインにしている印象があります。いずれにしても、アテンザはいかにもマツダらしい、という感じを受けます。

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マツダは今や全社あげてともいえそうですが、アテンザはデザインにこだわっています。とくに注目する部分が、ボディサイドのプレスラインです。前と後からのショルダーのラインが2本あるクルマは珍しくないですが、アテンザはその間にもう1本あり、3本の線が並んでいます。これはなかなかないと思います。

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この角度だと、一番前の線が、フロントフェンダーの峰の線であることがわかります。

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これはアテンザのデザインの途中で参考にされたプロトタイプの、「SHINARI(シナリ)」。これを見ると「フェンダーの峰の線」はアテンザと同様ですが、「2番目の線」がノーズ先端のグリル部分まで伸びており、「フェンダーの峰の線」と並行しています。
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シナリは、フェンダーのふくらみなどを強調したデザインでした。さすがに市販型アテンザより数段カッコイイですが、ただし相当大きいようです。

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シナリの、2011年東京モーターショーでの展示。テーマは「魂動」です。上述の「ノーズ先端グリル部分から伸びてきている線」がAピラーの後まで伸びています。これによってノーズの長さを強調する効果があるのかもしれません。「ノーズ先端からの線」と「フェンダーの峰の線」が、ワンセットのようにしてほぼ平行にひかれていることがわかります。

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市販型アテンザほどは「3本の線」が目立つわけではなく、リアのショルダーラインの線と、前側の2本の線とが、少し離れています。それにしてもリアフェンダーのふくらみは迫力があり、ある種アメリカンマッスルカーのようです。4ドアセダンでありながら、ロングノーズで、古典的なスポーツカーのスタイルに見えます。

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市販型アテンザは、「ノーズ先端からの線」がAピラー付け根の部分で終わっており、新たにその下から線をひき直して、それが「前から2番目の線」になっています。
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市販型アテンザは、当初はこの「2番目の線」は入れない予定だったのが、途中で変更されてシナリと同じように入れることになったようです。そのためもあって、シナリのようなロングノーズには見えず、「2番目の線」はある意味では、前と後の線の間に入る緩衝役になったようにも思えます。アテンザのデザイン開発は、紆余曲折あるなかでの、あくなき理想の追求だったようです。

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サイドの3本の線のほかにも、アテンザは意外なところに、繊細な線がひかれています。テールランプユニットの目尻のような箇所に、微妙なプレスラインが入っています。

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これはアテンザの市販型を予告するショーカーの「雄(タケリ)」。これも2011年東京モーターショーで展示されました。市販型よりは、シナリに近いダイナミックさを残しています。

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アテンザの次に出た同じ魂動デザインのテーマを採用したアクセラ。全長が短いのでアテンザのような流麗さはないですが、ダイナミックさではアテンザよりも上の印象です。小型ボディにもかかわらず、アクセラは、ラインに抑揚のあるシナリの特徴がアテンザ以上に出ているようです。アクセラは「3本の線」にせず、「フロントフェンダーの峰の線」をそのままリアドアハンドルの付近まで伸ばしており、シナリのラインに近い感じで、"ロングノーズ的"表現ができたようです。

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アテンザは、純粋なデザインスタディのシナリに比べると、はるかにスムースというか、ゆるやかで、アクセラと比べても、おだやかです。実はアテンザは、シナリができる前から開発が始まっていたようで、根本のラインが、シナリとは若干違うデザインであるようです。しかし多少インパクトに欠けるとしても、アテンザのスムースさは品があってよいとも思います。

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アテンザは、流麗さが魅力です。このクロームで囲まれたウィンドウグラフィックなども、大変スマートです。ボディの色も印象的です。

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ワゴンも、よく街で見かけます。ホイールベースがセダンより少し短く、見た目にひきしまっています。

【走り】

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数日間お借りした広報車は、スカイアクティブD(ディーゼル)搭載車で、MTでした。このエンジンは2188ccで、トルクが42.8kg-m(420Nm)もあり、どこから踏んでもぐっと出る感じでした。しかもMTなので、無意識に常に、走るのに最適のギアを選んでいることもあり、とにかくトルクは潤沢にありました。
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エンジンをかけると、あ、ディーゼルだ、とわかる音はします。ただし、回すとスポーティーなエンジンらしい音になります。なによりも5500rpmぐらいまで回ることが、ディーゼルとしては異例です。これについて、エンジン開発の人見さんに少し話を伺う機会がありましたが、もともとは、圧縮比が下がったので、コンロッドその他の回転するパーツが軽くなり、じゃあ回そう、というような感じで、回るようになったということです。つまり、あえてスポーティーをねらっていろいろしたのではないそうです。最大の課題はなにをおいても排ガスのクリーン化であったとのことです。

そのほか、2.5リッター・ガソリンの車両にも短時間、乗る機会がありましたが、エンジン音がよく、パワーもディーゼルほどでないにしろ、充分あるという印象でした。

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MTは6速ですが、ストロークが短く、快適に操作しやすいものです。昔乗っていたロードスターに似た感じと思いましたが、横置きエンジンのFWDなので、工夫して開発したと思われます。
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ディーゼルはATにも乗りましたが、ATは一般に燃費重視ですぐシフトアップで低回転をキープする傾向ですが、トルクが低速でもいくらでもある感じなので、アクセルをいつ踏んでもすぐに前に出て、非常に楽、という印象でした。もっともMTで、ギアチェンジをさぼってまめなシフトダウンをしない運転でも、平気なのが、低速から太いディーゼルの強みです。

室内ダッシュボードなどは、オーソドックスなデザインです。少しダッシュパネルの崖が高いようにも思えますが、デザインとしては落ち着いています。センターコンソール付近の造形やナビパネルの入り方なども、まとまっている気がします。

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全面が黒地で、アクセントで各所に銀が入るという世界です。廉価車や商用車が黒の樹脂一色というのはありますが、このクルマの場合、シックな黒、もしくはGT的なストイックの黒、という感じで、大人のデザインという印象です。

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メーターパネルも、落ち着いており、渋みがあります。一部にカーボン調の意匠もあります。基本的に機能に徹しており、ドイツ車的にも思えますが、ドイツのような硬さはなく、じゃあイタリアかというとそうでもなく、どこか日本的というか繊細さを感じます。一番右に表示されていますが、このクルマはi-Loop装着です。キャパシターでエネルギー回生をします。

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キャパシターの説明図。キャパシターは電池と違い、急な電気の出し入れに向いており、そのかわりすぐ放電してしまいます。

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これは「人とクルマのテクノロジー展」で展示されていたキャパシターの実物。日本ケミコンというメーカーが開発しています。同社はキャパシターのトップメーカーで、自動車での採用はまだ多くないですが、マツダのほか、ホンダのフィット/ヴェゼルにも、日本ケミコン製が採用されています。ちなみにここでの表記はキャパシタです。
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その展示パネル。フォークリフトなどにも採用されているようです。アテンザの場合、ストップアンドゴーがある街中だけでなく、バイパスのような区間でも加減速があるため、同様に効果を発揮するとのこと。アテンザで、だいたい10%燃費改善の効果があるといいます。
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アテンザはアイドルストップ機能も秀逸で、エンジン停止していてもペダルを踏むと瞬時に前に出ます。エンジンがスムースにかかりやすい位置にシリンダーが停止するよう制御しています。

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後席は、ホンダのアコードなどのように広大とまではいかないですが、十分な広さで、セダンの室内の広さに厳しい北米市場に対応した車種といえるようです。ルーフラインがスマートな分、若干視界は狭くなりますが、その分スタイリングが満足できるかと思います。

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FWDなので、トランクも十分な広さがあります。後席を倒すとトランクスルーになります。

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アテンザの走りは実に気持ちよいものでした。走り出して当初は、やけに大柄だなと感じましたが、ワインディングなどでは、スポーツモデルというほどでないにしても、快調な走りをします。五感に訴えるというのか、MTなどの操作感などもあいまって、クルマの動きが実に自然で、乗り心地もスムースです。一言で、乗って気持ちよいクルマ、というのが感想です。


(レポート・写真:武田 隆)

リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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