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新型4気筒のボルボV60 T5に試乗(合わせてT6も)

ボルボは2月20日に、新世代パワートレーン「Drive-E」を初めて「60シリーズ」に搭載しました。搭載モデルのひとつ「V60 T5 R-DESIGN」のほか、「60シリーズ」各車の試乗の印象を報告します。

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【新開発4気筒エンジンに統一の予定】
今回導入されたのは直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンと、8速ATです。近年のエンジンは、フォードとの共同開発のものが主でしたが、2010年にフォードから独立するのを見越して、新世代エンジンが自社開発されました。ボルボのここ約20年のエンジン・ラインナップは、ちょっとユニークで、V型8気筒(既に廃止)、直列6、5、4気筒がありましたが、今後は新しい4気筒に統一していくことになるとのことです。
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【新世代エンジン】
ボルボは、昔からエンジンを自社開発し、生産する能力を持っています。近年はフォードやヤマハ(V8)との共同開発が目立ちましたが、ボルボが開発する場合は、ブロックを共用して気筒数だけ変えることが多いようでした。今回の新エンジンもボア×ストロークが現行の6気筒と同じなので、ひょっとすると生産設備の共用などがあるのかもしれませんが、基本的に新規開発とのことです。ボルボは生産規模が小さいために、多種のエンジンを揃えるのでは非効率的という事情があります。そのうえ直噴ターボによるダウンサイジング化や、電動化(ハイブリッド化)が進む現在のクルマの状況では、マルチシリンダーはもはや時代に合わないという背景があります。
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そこで新世代のエンジンとして直列4気筒がチョイスされたわけですが、時代の要請で燃費性能は当然重視され、エンジン自体の軽量化も図られています。また、新エンジンは高性能モデルにも積まれます。出力の仕様などは今後さまざまなものが投入されていく予定ですが、エンジンとしてフィーリングの面も重視しているようです。
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【ディーゼルと部品共用】
新エンジンはボルボが1927年に自動車製造を始める以前、1907年にエンジン生産を始めたというスウェーデンのシュブデにあるエンジン工場で生産されます。ガソリンとディーゼルがあり、両者の部品は25%がまったく同じ、50%がほぼ同じ(ラインが共用できる程度)で、需要に応じて生産量の調整がしやすいとのことです。
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組み合わされる8速ATは、アイシンAWとの共同開発で、従来の6速のものとほぼ同じ大きさだそうです。従来のデュアルクラッチ式ATはゲトラグ・フォード開発のものでしたが、アイシンとボルボのつきあいは約40年になるとのことです。
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さしあたって今回S60/V60/XC60の「60シリーズ」のT5に、新エンジンが搭載されました。
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短時間試乗できたのは、V60 T5 R-DESIGN。S60/V60に今回T5が新設されましたが、「5」でありながら4気筒というわけです。直列4気筒は、1908年登場のT型フォードが採用して以来、100年以上世界の自動車の主力エンジンであり続けており、ボルボも今新たに最適のエンジンとして直列4気筒を選んだわけです。日本の軽自動車や欧州スモールカーでは3気筒が主流化していますが、その上となると今やメルセデスSクラスやジャガーXJにまで4気筒が積まれる時代です。
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乗った印象としては、4気筒エンジンは、マルチシリンダーに匹敵することはないにせよ、回したときの気持ちよさは十分あり、スムースでした。今回60シリーズに搭載されたエンジンは、245ps、35.7kg-m(350Nm)で、力強さは十分で、踏めばぐっと前に出ました。
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【エコプラスモードも設定】
8速ATは、MTモードが選択可能で、パドルシフトもできますが、低回転でシフトしたときなど、助手席にいるとシフトショックだけでなく、エンジンの回転差さえわからない感じでした。走行モードは、通常モード(Dモード)、スポーツモード、エコプラスモードがあります。エコプラスモードにすると、燃費重視のために回転が低めになり、アクセルへの反応なども鈍く感じ、低回転で走るために若干エンジン回転がスムースでないときもありました。ちなみにマニュアル操作をした場合、75km/から8速に入れられるそうですが、8速では100km/hが1500rpmに相当します。
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R-DESIGNはラインナップの中では、スポーティーな足回りの設定ですが、V60 T5 R-DESIGNは、非常にスムースな乗り味でした。話に聞くかぎりでは従来からあるT-6のR-DESIGNとは少し異なるようです。少なくとも、以前に乗ったV40のR-DESIGNはもっと硬めの印象でした。
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【T6、希少な直列6気筒】
ここからは昨年9月のことですが、S60 T6 AWDにも試乗しました。2014年モデル導入当初のことでしたが、T6はさしあたって今も6気筒搭載で継続中です。ボルボの直列6気筒は横置きされていることが特徴です。もともと後輪駆動だった時代に縦置きで直列6気筒を使っていましたが、1990年代にボルボが前輪駆動へ移行する際に、既存エンジンをそのまま活かす形で長い6気筒を大胆に横置きし、その搭載方式が現在まで受け継がれています。6気筒を横置きするにあたって、ギアボックス形状や補機類の配置などに独自構造が必要で、生産効率で不利な面があったと思われます。
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【安定したコーナリング】
とはいえこの6気筒モデルは将来なくなるのが惜しいとも思えます。直列6気筒ならではの快音とスムースさは、大きな魅力です。シフトアップまで息の長い加速は(ギアの選び方にもよりそうですが)、なかなか得難い体験でした。S60はこのとおりのスタイリッシュでスポーティな外観ですが、走りもそれにふさわしいものです。山道を走りましたが、6気筒横置きでも、ノーズが重いような気配は感じられず、コーナリングが安定して、ちょっとしたコーナリングマシンのような印象でした。これにはトラクションコントロール類その他の充実したデバイスが効いている面もありそうですが、横置きで直6を収めるワイドトレッドが功を奏しているのか?、という想像力も働きます。S60/V60のボディは、直6のためかは不明ですが、わずかながら幅広で、フロントのトレッドは1580〜1590mmあります。ちなみにこのT6はAWDでしたが、このときFWD4気筒(1.6ターボ)のV60 T4 SEも少し乗ったところ、当然ながらより軽く、やはり活発に走りそうな雰囲気でした。乗り心地は弟分のV40よりは一段上の洗練されたものでした。
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【スーパーチャージャーも導入】
T6にもいずれ新型4気筒が導入される予定で、本国では2013年に既に生産が始まっています。現行6気筒の304psに対し、少なくとも外国仕様では306psと同等で、最大トルクが若干細いようです。排気量は2.0リッターなので、加給をターボとスーパーチャージャーの2段構えとしています。音質は6気筒のほうがよさそうにも思えますが、ノーズが(おそらく)軽くなる分、走りはさらに良好になるかと思われます。
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余談ながら、現在ボルボにはこの「60シリーズ」に搭載の3リッターのほか、XC90に搭載する3.2リッターの、2種の直列6気筒があり、これらはフォードとの共同開発で、ボルボ工場で生産されているそうです。このほかV40に5気筒があり、V40や「60シリーズ」は1.6リッターも搭載しますが、新世代4気筒2.0リッターは、それらの置き換えとなる低出力仕様も開発されるようです。
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S60は、デザイン的にそう見える面もありますが、幅広の佇まいです。ボンネットまわりやグリル周辺の造形などが立体的で凝っています。アウディに似てきたなどという声もありますが、むしろ実直な塊感を崩さないアウディよりも、スタイリッシュさでは一歩前に出たような印象です。
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【ボルボの新デザイン】
上が「2013年モデル」、下が2013年夏に導入された「2014年モデル」。フロントまわりがかなり改変されています。2013年モデルのほうが、ボルボらしく見えるのはある意味当然ですが、新型を基準にして見ると、旧型は少しロボットっぽい四角さが目に付くようにも見えてきます。あまり流麗になりすぎるとボルボのアイデンティティ崩壊ですが、ボルボらしさを維持しながら、洗練や、スポーティーさ、スマートさを増しているのが、現在の進化の方向のようです。
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内装は最近のボルボの定番的なものです。これは先ほどのS60 T6 AWDですが、今の自動車の内装で、「モダンデザイン」といったらそれはボルボのこと、という感じです。貴重な、クラシカルなモダンの趣きで、やはり北欧モダンという言葉が浮かびます。
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センターコンソール部分がひとつのハイライトです。S60/V60は木目パネルはこれ1種で、ほかはアルミ調などのシルバーやグレーのものになるようです。
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【XC60】
これはXC60(T6 AWD)のもので、木目パネルがプレーンな仕上げで、いよいよ北欧家具っぽい感じです‥。スイッチ類も同様ですが、とくに中央部分の数字のボタンが並ぶパネルは、外すとそのままノキアの携帯電話として使える‥‥、などと言いたくなるような感じです。
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同じXC60の室内全体。デザイナーズ物件という感じです。S60/V60とは、ダッシュボード形状などが微妙に異なります。
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そのXC60 T6 AWDの外観。これも2014年モデルで、スマートさを増しています。これも山道を走りましたが、S60にはもちろん及ばないにしろ、相当走れるという印象でした。今回XC60もT5に新型4気筒が搭載されましたが、XC60の場合、従来もT5があり、同じ排気量2.0リッターの4気筒ターボでした。新旧エンジン搭載モデルを比べると、燃費がJC08モードでは、旧型の11.1km/Lに対し、新型は13.6km/Lとなっています。0-100km/h加速も8.1秒から7.2秒へ向上ということなので、新エンジンはしっかり進化しています。
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最後に。これはS60ですが、ボルボはスウェーデンとオーストラリアで、ツーリングカーレースに参戦しています。S60から、ボルボ市販車のダイナミクス性能が強化されたようです。昔のボルボ・レーシングカーに、「かっとび(空飛ぶ)レンガ」という愛称がありましたが、このS60は超ワイドトレッドで、地を這う円盤のようです‥‥。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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