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新型ゴルフについて-その1(試乗の印象)

フォルクスワーゲンの新型ゴルフについて、3回に分けて報告します。2回目は「デザイン」、3回目は「GTI」の予定ですが、1回目はノーマルモデルの試乗の印象です。6月に導入された新型ゴルフに、今まで何度か試乗する機会がありました。


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広報車両をお借りして今までに走ったのは、首都高を含む高速道、流す程度のペースでの山道、市街地など。ハードに走る以外は、ある程度いろいろな場面を体験しました。いくつか、感じたことを綴ってみます。
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新型ゴルフの第一印象は、誰もが言いますが、今までもカンペキだったのが、さらにカンペキになった、という感じ。素直に感動しました。40年間常に先を見て、進化してきたゴルフですが、今回の新型も、同クラスのほかのクルマよりも、全体から細部まで、洗練の度合いが一段違う感じです。上の写真はTSIコンフォートラインで、窓のバイザーなどのオプションを装着しています。 
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感じたことを2点挙げると、スポーティーな感じが強まったことと、コックピットのデザイン変化です。スポーティーなのは、まず見た目の印象で、低く精悍になりました。走りは、乗り心地、静粛性など、全体の質が向上していますが、その中で、スポーティーな面、走りの安定感も確実に向上しているようです。最初に乗ったのは、高原を行くような道でしたが、オブラートに包まれたような上質な走りでありながら、しっかりした足さばきで、スイスイと気持ちよく走りました。スープの出汁をとるとき、灰汁を漉して、うまみのスープをつくるわけですが、それと同じようにあれこれの雑音が消されて、走りの良さだけが際立っている、というような感じに思った次第です。
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"スポーティーさ"の要因はいろいろあると思いますが、車体の基本姿勢から是正されています。新型ゴルフは車高を若干低めて、トレッドを拡大しています。ゴルフの基本はあくまで実用車なので、日本市場における若干スペシャルティカーに近い同クラスの欧州製ライバルのいくつかよりは、むしろまだほんの少し高めのようですが、着座位置も旧型に比べて低くなっているようで、走りの安定感につながっていると思います。ロールが少ないように感じました。また、車体も軽いように感じました。
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グレードは、1.2リッターTSI(トレンドライン/コンフォートライン)と、1.4リッターTSI(ハイライン)があります。1.4は当然パワーに余裕がありますが、燃費向上のために、低負荷時に4気筒エンジンの2気筒を休止させるシステム(ACT)を採用しています。一般に直列2気筒というと振動のかたまりというイメージですが、いつ2気筒になったのか今回は一度も判別できませんでした。
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リアサスがハイラインのみ従来どおりの4リンク(マルチリンク)ですが、1.2リッター車に、新規に(ひさびさに)採用されたトレーリングアーム(トーションビーム)でも、ふつうに乗っているかぎりはほとんど変わらないようです。1.2は、パワーが1.4より少ない分エンジンをまわすことになり(ふだんはふつうに走れますが)、昔のアルファロメオなどが小排気量版のほうが楽しいといわれたのと同じような感じで、スポーティーさを体験できると、個人的には思いました。とはいえスポーティーモデルではないわけで、コンフォートラインに夏に乗った時、16インチのタイヤのせいもあるのか、街中では少し硬めの印象なのが気になりました。1.4のハイラインだと、オプションで、ダンパー減衰力などの設定を変更できるアダプティブシャシーコントロール「DCC」が選択可能です。そこで「コンフォート」のモードを選ぶと、かなりソフトになります。
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これはTSIハイラインの「ドライビングプロファイル機能」のモード選択の画面です。「コンフォート」、「ノーマル」、「スポーツ」、「エコ」の4種のモードがあり、さらに各項目を個別に設定もできます。
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「個別」を選ぶと、この画面が出てきます。「DCC」のほか、「ステアリング」、「エンジン」、「ACC」(アダプティブクルーズコントロール)などの特性を個別に設定できます。
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第二に目についたのがダッシュボードです。今回の新型で、ゴルフとしては初めて、メーターパネルからセンターコンソールのパネルまでが一体式になり、ドライバーを中心とした「コックピット感」を高めました。それと同時に、そのパネル面が、艶やかな光沢の、いわゆるピアノブラック仕上げになったのが意外でした。「コックピット感」については、運転の楽しさを演出する方向のデザインといえます。ゴルフは実用車なので、コンサバであることを大切にしていますが、やはり退屈に思われては困るという意識は、いつもあるのではないかと思います。「ゴルフ」の領域を外れない範囲で、進む道を常にあれこれと模索して進化し続けているのがゴルフ。そして今回、ダッシュボードに比較的大きな変化が現れたわけです。
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ピアノブラック仕上げは、質実剛健のゴルフとしては「らしくない」という感想を、よく耳にします。ただゴルフはそもそも初代のときから、ただの質実剛健ではなく、大衆の心に訴えるポピュラーなクルマ、という面をもちあわせていました。なので個人的には、これぐらいはありだろう、とすぐに思って受け入れました。ゴルフらしくないとすると、パネルに反射があることかもしれませんが、少なくとも今回はとくに気になることはありませんでした。ピアノブラックは目下大流行中ですが、その質感はいろいろで、黒いだけで、ピアノではないだろう、と思ってしまうものもあります。さすがにゴルフのは、これはピアノのようだと思った次第です。ピアノブラックは、木目パネルなどと違って、高級車御用達の伝統があるわけではなく、それを考えるとむしろゴルフらしい選択といえるかとも思います。今やゴルフもプレミアム感を醸し出そうとしているけれども、木目調などはゴルフの道ではない、といえそうな気がします。
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しかし今回もうひとつ、金属調が登場しました。ピアノブラックはハイラインのみで、1.2のトレンドライン/コンフォートラインは、このようなアルミ調のヘアライン仕上げです。メーカーではシルクマット仕上げと呼んでいます。つや消し調のこちらのほうが渋みもあってよい、という声も多く聞きましたが、たしかに落ち着くし、スポーティーな精悍さもあるようです。ちなみに発売当初ナビは外付けになっていますが、年末頃には組み込み型に変わる予定のようです。
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歴代ゴルフのインパネはずっと黒、というイメージがありますが、シルバーのパネルは、初代ゴルフにも採用がありました。それにしても内装がグリーンというのは、ポップデザイン全盛のよき時代です。しかもゴルフで、です。
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現代のゴルフのメーターパネルは精緻な曲面です。メーターの数字などは、基本中の基本というもので、シンプルで見やすいですが、高品質さも感じさせるデザインです。ゴルフのゴルフらしい部分のひとつと思えます。
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コックピット全景。ダッシュボードがかなり傾斜しているのがわかります。外観上は、Aピラーがかなり傾斜しているのが新型ゴルフの特徴のひとつです。
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ドアトリムのデザインは、オーソドックスな現代ドイツ高品質デザイン、とでもいうような感じです。整然としていますが、必ずしもシンプルではないのだな、と思って見た次第です。プレスリリースを見ると、ガスを使った特殊な射出成型工法で作られているとのことです。それにしてもやはりドイツらしいというべきか、整然とはしています。これは白のレザー仕様の内装ですが、1.4のハイラインの場合、ドアや助手席前方に付く加飾パネルは、ダッシュパネル同様に艶のあるブラックでも、パターンの模様が付けられています。
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同じハイラインの後席。劇的に広いわけではないにしても、後席の居住性を確保しているところが、四角いボディを守るゴルフの見どころです。実用車としての本分を守っています。ニッチではないわけです。コンサバティブの保守本流の地位でずっと売れ続けるのは大変だと思います。
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今回もうひとつ驚いたのは、ハイラインに標準、その他にオプションで設定される「レーンキープアシストシステム」です。車線に沿った走行を促すもので、65km/h以上で作動し、高速道路などでカーブにさしかかると、ステアリングが操舵され、自然に曲がって行きます。ここ最近、自動運転の実用化へ向かうかというニュースで賑わっていますが、市販車でここまで運転に介入してくるのは、ちょっと驚きでした。ドライバーのステアリング操作によって解除されますが、これをいやがる意見があるのはもっともだと思ういっぽうで、長距離運転などで疲れたときに、腕の動作を「サポート」してくれるのは、助かるとも思います。
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(レポート・写真:武田 隆)


リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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