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スズキ・スイフトとワゴンRに試乗

スズキ・スイフトは7月17日にマイナーチェンジして、「デュアルジェット・エンジン」/「エネチャージ」の搭載車が設定され、軽自動車のワゴンRも先進安全技術を搭載するなど改変されています。その後9月にスイフトを少し長く(計約500km)試乗できたので、その印象と合わせて報告します。

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新型スイフト。マイナーチェンジで、外観はロアグリルが幅広になったほか、フォグランプ・ベゼルのデザインが変わっています。LEDイルミネーションが印象的です。デザインについては後ほど検証します。
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発表時の試乗会会場で。「新開発 デュアルジェット エンジン」というプレートのすぐ上に、8個のインジェクションが並んでいます。ちなみに4気筒です。
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"デュアルジェット"とは、つまりツイン燃料噴射です。この技術の目的としては低燃費の達成がまずあり、その際非力にさせないために、あえてユニークなツインインジェクションを採用したといえます。低燃費のためには圧縮比を上げることが肝要で、そうするとノッキングを防ぐ必要が生じます。そこでインジェクションの高性能化が効いています。このほかに上図のように、燃焼室を球形に近付けるなど、燃焼効率改善のための処置を各所にしています。
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デュアルインジェクションによって、上図のように燃料の噴霧が、細かく均質になります。水冷式EGRクーラーによって燃焼温度を下げることもしています。
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シリンダーヘッドを横から、上下逆に見たところ。下の写真は従来型。上が「デュアルジェット」で、吸気ポートのすぐ下(つまり上方)にインジェクション用の穴が2個あります。ツインインジェクションは、他メーカーにもありはするようですが、めずらしいものです。この技術のねらいは、直噴エンジンに近いものだそうです。インジェクションはそれなりに高価と思いますが、2個使っても直噴にするよりは安いのだそうです。そこがポイントです。
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次に「エネチャージ」について。先に軽自動車のワゴンRに採用しており、このパネル展示は5月の「人とクルマのテクノロジー展」でのもので、ワゴンR用です。スイフトも、バッテリー容量など、基本的に同じシステムを使用しているようです。
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リチウムイオン電池は、高性能でも高価なため、ハイブリッドカーでも最近まであまり使われていなかったわけですが、スズキの「エネチャージ」の場合、補機類をいくつか不要とすることでコストダウンできているようです。
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これは「エネチャージ」やアイドリングストップ関連システムの3点セット。左手前が「リチウムイオン電池パック」、その奥がアイドリングストップに貢献する「タンデムソレノイドスタータ」、右がエアコンの「蓄冷エバポレータ」。先ほどと同じ展示会でのもので、これはデンソーのコーナーでした。スズキとデンソーの共同開発とのことです。リチウムイオン電池はいわゆる本格的ハイブリッドカーに比べればごく小容量で、モジュールは5個しかありません。
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「蓄冷エバポレータ」はエアコンのエバポレーターの中に、アイスノンのような蓄冷剤を入れています。これによってアイドリングストップ中にクーラーを止めても、冷風がしばらく出続けるので、電気の使用量を節約し、アイドリングストップの時間を延長できます。この技術はコスト的な制約のあるコンパクトカーで、アイドリングストップの時間を稼ごうというもので、うまいアイデアだと思います。
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このエアコンの技術をスズキでは「エコクール」と称しています。家電製品のネーミングのようですが、それはともかく「エコクール」がどのように働くか、ワゴンRの場合の説明が上のパネルです。春〜夏で2%燃費向上とのことです。
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スイフトで真夏の暑い夕方、エアコン送風を目盛り1にしていたところ、アイドルストップの時間をそらで数えて、90秒を超えたこともありました。ちなみにスイフトのアイドルストップ時間は最大で2分のようです。
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試乗会では、ワゴンRに新装着された「誤発進抑制機能」をデモ体験できました。停止中または10km/h以下で走行時、前方に障害物がある状況で間違ってアクセルを強く踏んでも、急加速や急発進しないよう抑制します。この状態でアクセルを踏み込んでもクルマは動きません。ワゴンRはこのほか「レーダーブレーキサポート(RBS)」も新しく装備し、それもデモ体験できました。約5〜30km/hの低速域で作動する衝突被害軽減ブレーキで、ブレーキを踏まなくてもしっかり障害物の直前で止まりました。
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上写真はこれらの機能に使われる、前方検知のためのレーザーレーダーで、ワゴンRではバックミラー部に付きます。この位置は作動性能が安定するそうです。
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ワゴンR。これは7月に発売された「ワゴンR 20周年記念車」です。このときはひとまわりしただけですが、さすがにこのカテゴリーの伝統と実績のあるモデルで、走りも充実し、全般に手堅く仕上げたクルマという印象でした。「エネチャージ」は、走行中に電装品のための発電に使う負荷をエンジンにかけなくしているわけですが、パワーに余力のない軽自動車では効果抜群といえるようです。ワゴンRはこのほかCVTとエンジンの協調の制御をセッティング変更したり、エンジンのタイミングチェーンの細幅化で摩擦抵抗を減らすなどの改善で、30km/リッター(JC08)の燃費を達成しています。
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さて再びスイフトです。長く試乗できたのはXS-DJEという、通常モデルの最上級グレードのFFモデル。「DJE」は、デュアルジェットとエネチャージを両方備えるモデルに付く名称のようです。ただのXSのFF車は(エネチャージなしのうえ)デュアルジェットと同排気量(1242cc)の通常エンジンですが、馬力のスペックはデュアルジェットと同じ91ps/6000rpmです。トルクも12.0kgmと同じで発生回転数が若干高めになるだけです。つまり「DJE」は、パワーを維持して燃費を向上させているわけです。JC08モードでは、XS-DJEが26.4km/リッター、XSが20.6km/リッターです。
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スイフトのステアリングは、上下のチルトに加えて、前後のテレスコピックの調節もかなりできます。スイフトはかつてWRC参戦するなど、競技マシンにも供されたイメージがあります。ステアリングを手前に伸ばせるというのは、ラリー車の流儀なのかとつい思ってしまいます。なぜか不思議とステアリングをまわしやすい感じがしました。XSというのはあくまで実用モデルなので、ふつうに運転ポジションを調節できる機能としてあるわけですが。ちなみに、今回は高速の移動中心でしたが、コンパクトカーとして乗り味は良好と感じました。
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後席です。実用コンパクトカーとして居住性を確保してヘッドルームも十分です。おもしろいのはリアドア窓のカーブで、室内側から見るとこんな感じです。窓の開口部は広くは感じません。
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ダッシュボードのデザインは、モダンでヨーロッパ的という印象です。ステアリングには、XS系ではパドルシフトが付き、CVTの7速をマニュアル制御することも可能です。メーターを見るとこの写真では青色になっていますが、青は通常の運転状態です。
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燃費の良い運転をするとグリーンに変わります。メーター中央部には発電機の輪と電池のグラフィックが見えます。エンジンが始動すると左側にエンジンのグラフィックが現れ、電気エネルギーの流れを示す矢印が出ます。
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惜しいのは左端にあるタコメーターです。ATのように乗るならこれでよいですが、パドルシフトでマニュアル制御にしたときは、回転数がもうちょっと見やすいと良かったと思います。また、このグラフ式のメーター表示だと回転の上限は8000rpmとうっかり思いがちですが、実は6000あたりからレッドゾーンで、回転が上がらないと"レッド"の表示が出てきません。今回、3000〜4000ぐらいまで回しても、まだ許容回転数の半分以下かと思って、とまどったことがありました。回転数については、理解不足のまま乗ったのがいけなかったわけですが、せっかくパドルシフトまで付くのに、このメーターは惜しいとは思います。慣れれば瞬時に読みとれるのかとも思いますが。ちなみにスポーティーな「RS」だと立派なタコメーターが付きます。
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パドルシフトでの操作は、今回は高速中心で、ごく短時間しか試さなかったうえ、自分の理解不足もあって、気持ちよくリズムが合うという体験ができませんでした。そのほか、燃費優先の仕立てのためだろうと思われますが、ふつうに乗ると、CVTが高いギア比を選択して回転が低めになり、上り坂ですっと速度が下がってしまうということがありました。おそらくクルマのくせ、勘所を理解していけば、アクセルのふみ加減などを自然に調整し、きびきびと走れるのだろうと思います。今回の新型スイフトに乗って、パワーがなくなった印象だったという声も聞きましたが、燃費と動力性能の両立を実現したのがデュアルジェットなので、本来はそれはないはずと思います。初期設定といったら変ですが、とにかく市場の要請のために、ふつうに走ると燃費優先の走りになる傾向はあるようです。
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ここからはデザインについてです。ひと目でスイフトとわかる個性があり、コンパクトカーとしていかにもまじめなパッケージングと感じさせて好ましく見えます。ただそれ以上の印象を個人的には今まで持っていませんでした。現行のこのスイフトは、フルモデルチェンジ前の先代から超キープコンセプトのデザインで驚かれたものですが、今回少し長く付き合ってみて、意外に見ごたえのあるデザインということを知りました。
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基本的に、スイフトは愛着がわくタイプのクルマと思います。外観は、少しずんぐりしたところがあり、たのもしくも見えるし、愛嬌があるようにも見えます。味があります。量感を感じさせるのは、ウェストラインがうしろ上がりになっているせいもありそうです。そして、それを利用したサイドのウィンドウグラフィックが特徴的です。先代スイフトはもっとシンプルなデザインで、それはある意味ピュアで、見どころがあったかもしれませんが、この現行型は、その先代を尊重しつつ、もっとスマートにダイナミックにしようとして、成功しているように思います。サイドのウィンドウグラフィックもシャープになっています。車体下半部のボリューム感と合わせて、この側面は昔の名車ランチア・ストラトスを思い出させます。窓だけならフェラーリの"エンツォ"とも同じです・・・。などと考えながら、このスイフトは車高が低かったら、精悍なスタイリングなのではないかとふと思い・・・。
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そこで、すぐできるので、このようにして見たところ、元のほうがよいことがわかりました。これだと意外にふつうです。あらためて、基本ボディの寸法で、スイフトは巧みにデザインされているのだと理解した次第です。
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キャビンは比較的四角く、その前後に、横から見て丸いノーズ部分と、丸いテール部分が追加されている、というデザインテーマです。このデザインテーマはほかの車種でも使われており、近年のスズキがテーマにしているもののようです。スイフトでは、前後のライトの形状もそれに即してデザインされています。この丸みやプレスラインは推敲されている感じをうけます。
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これは、2011年東京モーターショーで展示されたショーカーの「レジーナ」です。このクルマを担当したデザイナーの結城さんは、先代スイフトにも関わったそうですが、このクルマは空力を極度に追求しながらも、あえて美的なユニークさを表現することを課題にしてデザインされていると聞きました。かつての独特なフランス車あたりを意識した面もあるそうですが、見る人が見ればそう見える雰囲気があるだろうし、それを知らない世代の人には未来的に見えるだろうとのことでした。奥にスイフトが見えていますが、テールランプ付近など、スイフトと同じカーブを描いています。ウィンドウグラフィック、ルーフラインだけは、違うものになっており、レジーナのほうがスマートです。このときの雑談として、現行型スイフトはキープコンセプトだったので、次のモデルチェンジは大変かも、などと話ましたが、ことによるとレジーナに似たものになることもあるのだろうかと、想像もしてしまいます。とにかくこのクルマを見て思うことは、スズキのデザインはたいしたものだということです(ナマイキなもの言いですが)。
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スイフトも、仔細に眺めると、たいしたものだ・・、と感じます。フロントも丸いカーブを描いていますが、そのカーブが味があるし、ボンネット両サイドの峰のプレスライン付近の曲面も、微妙で心地よさがあります。スイフトは先代、現行型と、たいへんヨーロッパ調のデザインで、日本車ばなれしたところがちょっとあると感じます。
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ダッシュボードの曲面は、外観のノーズの丸さに呼応したものかと思います。この思いきった曲面も、目をひきます。オーディオ等のスイッチ類も見た目に整理され洗練されており、おおげさにいえばバウハウス調ともいえるような感じです。ある意味"古風な"モダンデザインであり、現代のコンパクトカーであれば、もっとポップなものにするのが主流かとも思います。シンプルといえばシンプルで、好ましいまじめなデザインだなと言ってしまえばそれで終わることかもしれません。ただひとつ思うのは、スズキのデザイン、ひいてはクルマづくりは、大人ではないかということです。スズキは世界に自ら進出し、ヨーロッパでも地歩を築いています。ヨーロッパ市場が厳しい走りを要求するのに対し、国内市場だけ見ているとあまちゃんなクルマづくりになってしまいがちなどといわれることもあるわけですが、国際派と自らいうこともあるこのスイフトは、たしかにしっかりつくられているという印象です。
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もちろん好みの問題はあるし、若干課題ともいえるくせを残した部分もなくはないですが、積極的に選ぶ理由があり、長く乗って愛着を感じられるクルマなのではないかと思った次第です。
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(レポート・写真:武田 隆)

リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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