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新型ルノー・ルーテシア、新デザイン戦略

ルノー・ジャポンは、新型ルノー・ルーテシアを9月24日に販売しましたが、それに先だって行なわれた発表会の様子を報告します。ルーテシアとして三代目になる新型は、ルノーの新世代デザインを本格採用し、従来からイメージを変えています。プレゼンテーションも、デザイン面の紹介に力が注がれていました。

(7月25日・東京 港区海岸)

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新型ルーテシア。ルーテシアとしてだけでなく、ルノー車としても大きく印象が変わりました。直接的にはデザインディレクターの交代が背景としてあります。
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発表会場の「TABLOID」は、東京港、芝浦付近、日の出ふ頭に面した地区にありました。旧印刷工場を改装して、イベントスペースなど、デザイナーやアーティストの発信拠点となるようつくられた施設で、ニューヨークのSOHOなどをイメージさせるコンセプトであるようです。会場は真っ暗で、メイン車両の周囲に赤いレーザー光線がはりめぐらされていました。あとで明るくなってみると、会場の装飾は黒で、シックな雰囲気でした。陽光の下での明るさがもちまえ、というイメージがどこかにあるルノーとしては、少し意外な演出です。この演出は、ルノーの新デザインディレクターがオランダ人であることから、港湾都市を抱えるイメージのあるオランダのカルチャーが入ったものだろうか、などと思ったりしましたが、それはうがちすぎのようでした。本国メーカーサイトを見ると、赤いクルマが、夜のパリの街を走る映像がフィーチャーされていました。
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大極司COOによるプレゼンテーション。会場や新型ルーテシアのイメージカラーに合わせたコスチュームが印象的でした。
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フロントマスクは新デザインです。ルノーのエンブレムが大型化されたうえ、前方から見て存在感が出るように、垂直に近く起されています。さらにエンブレム両翼に、ブラックのグリルをデザインしています。これが今後のルノー車の顔になります。
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新しいデザインのもうひとつの特徴は、筋肉質な曲線の、立体的なボディの造形です。有機的、官能的、ダイナミック、などの言葉が連想されます。個人的な第一印象は、ヒョウやチーターのような動物です。前後フェンダー部のふくらみが前後の脚の付け根で、腹の部分がくびれている、というように見えたのですが・・・。
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新デザイン戦略を統括するローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏。インタビュー映像が流れました。彼は2009年にルノーに移籍しています。その前はマツダにいたことが知られています。左上に映っているのは、コンセプトカーの「デジール」で、新型ルーテシアは、これとリンクしたモデルとのことです。字幕でも言っていますが、ルノーはデザインが比較的よく変わる、という印象があります。ヴァン・デン・アッカー氏の前には、パトリック・ルケモン氏が、1993年のルノー・トゥインゴ以来、個性的デザインを展開したことで知られています。ルケモン氏の時代のデザインから、今回変わったのはまあ当然と思えますが、実はルケモン時代にも、デザインは何度か変化しています。
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過去をふりかえると、ルノーのデザインは、フランスらしくモダンで、前衛的でユニークなデザインも多いですが、比較的オーソドックスな傾向もあり、ときに日本車に似た感じに見えるモデルもありました。ただそんなモデルでも、ボディを間近で見ると質感が日本車と違うのが不思議です。ルノーの新デザイン戦略は「シンプル」、「官能的」、「温かみ」の3つがキーワードとのことで、今回のルーテシアもそれに従っているようです。「シンプル」については、この抑揚のあるボディを見ると、そうなのだろうかと思うところもありますが、突起を残さない滑らかさが「シンプル」なのかもしれません。「官能的」は見るからに納得できます。「温かみ」とはおもしろい表現ですが、これはたしかにあるかな、と思った次第です。
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ヴァン・デン・アッカー新体制のルノーは、ニューモデルを「サイクル・オブ・ライフ」というテーマに従って投入していく方針です。人生にはサイクルがあり、出会いから恋に落ちた2人が(LOVE)、世界中を冒険し(EXPLORE)、家族を持ち(FAMILY)、働き(WORK)、余暇を楽しみ(PLAY)、賢さを得る(WISDOM)、という設定で、各ステージに沿うモデルが出てくる予定だといいます。これはルノーの、人を中心にしたクルマづくり、という企業理念から発想されたそうです。おもしろいことを考えるな、というのが日本人としての感想です。ちなみに今回のルーテシアは(LOVE)のステージです。
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このサイクルは、色分けされているのがまたおもしろいところ。そのサイクルに沿ったコンセプトカーが並んでいますが、一番右は「デジール」で、ルーテシアと同じ(LOVE)の赤色です。その左隣のオレンジ色のクルマは「キャプチャー」。
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「キャプチャー」は2011年東京モーターショーで展示されていました。このオレンジはサイクルの(EXPLORE)に相当します。よく見るとリアクォーターウィンドウ部分に「サイクル・オブ・ライフ」の図があり、(EXPLORE)の部分がマークされています。デザイン言語はルーテシアと同じで、ボディサイドも、前後フェンダーの張りや、ドア下部の「くびれ」が目立ちます。それにしても、好む好まないは別として、ひとつのデザイン作品としてこのクルマは見応えがありました。そのチーム(広い意味で)がルーテシアをつくっているわけで、ルノーのデザインの力量を感じさせます。
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ルーテシアのデザインスケッチのひとつ。ここでもボディサイドの「前後フェンダーの張り」と「下部のくびれ」が描かれています。ただし、ヒョウの肢体のようには見えません。リリースを見ると、ヴァン・デン・アッカー氏は「その曲線は人の筋肉のようなダイナミズムを感じさせます」とコメントしていました。
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実車は、リアまわりも立体的な造形です。右に少し映っていますが、会場では「ピエール・エルメ・パリ」が、ドリンクやチョコレートをサービスしていました。ピエール・エルメといえばマカロンが有名ですが、マカロンはパステルカラーで感じが合わないからか、情熱的な(?)チョコレートが供されていました。
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ピエール・エルメは、本国ルノーでもコラボレートしているそうですが、ピエール・エルメ・パリ青山店で、9月半ばに10日間、「バー・ショコラ」を特設の「ルノー・カフェ」としてオープンし、スペシャルメニュー「LUTECIA」が供されました。ピエール・エルメ氏はパティシエ界のピカソなどと呼ばれる、ニューウェーブの存在で、菓子づくりの展開にデザインやモードの手法を取り入れたのだそうです。レジョンドヌール勲章をもらっているカリスマですが、最初に出店したのは東京だとのこと。
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ちなみに同じフランスでシトロエンは、パリ発の高級食材店フォションとタイアップしたりしています。スイーツとの連係など、自動車の本筋とは関係ないことですが、フランスでは積極的に行なわれているわけです。日本の自動車や鉄道においては、ドラえもんやアンパンマンとの積極的なコラボレーションがありますが、どら焼きやあんぱんとの連係などはどうなのだろうか、と考えます。
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ルーテシアの内装。先日、プジョー208GTiの赤を使った内装が印象的でしたが、これはそれ以上でした。もっともこれはある程度特別な内装色で、基本の内装色は黒のようです。この赤色は、屋内の会場で見るかぎり、やはりフランスから来た赤という感じでした。
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もとのデザインスケッチ。市販車は多少変わっていますが、かなり再現されています。センターコンソールが浮かんだように見える「フローティングデザイン」と称されています。
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シートにも赤が入りますが、そこに格子状模様になっており、しゃれています。
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内装のオプション色は青や栗色もあり、赤に比べて少し抑えめになります。写真はダッシュパネルですが、素直なカーブの感じは従来のルノー車とも共通する気がします。「飛行機の翼が持つような、軽量で高い強度を併せ持つ形状の特徴を取り入れたかったのです」と、リリースでインテリアデザイナーがコメントしています。シボも、革模様などではなくモダンですが、シートの模様と合わせているようにも見えます。
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青い内装の車両の外装色は「ブルー ドゥ フランス」。ブルーチーズの一種かというような名称ですが、ようするに「フレンチブルー」で、往年のフランス産グランプリカーなどと同じような色です。メタリックでないので、赤のクルマとはまた印象が違います。ボディサイド下部のくびれた部分は、樹脂パネルが貼ってあるようです。
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そのホイール。ボディ色が一部に塗られています。おそらく車体に合わせたデザインで、よく見ると凝った形状です。
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ボディサイドの微妙な淡い曲面。官能的というか、有機的、生物的なぬくもりがある感じで、このクルマの造形は、ほ乳類的です。いちばん感じが近いのはイルカだろうか、と思った次第です。
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ところで、先代ルーテシアはこれでした。ルノースポール・モデルはまだしも、ノーマル・モデルは日本ではあまり見る機会がありません。先代に対するてこ入れもあって今回の大改変モデルが誕生した面もあるそうです。とはいえこうして見ると、意外に引き継いでいるところもあるように見えます。
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もう一つ前のルーテシア。パトリック・ルケモンの勢いがあった頃なのか、存在感が強く、こだわってデザインされたという感じがあったかと思います。1998年登場。
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初代ルーテシア。1990年デビュー。一見日本車にも似たオーソドックスなハッチバック車でも、洗練されたデザインでした。このようにルーテシア四代は、毎回かなり変わっている印象です。
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ルーテシアのルーツであるルノー5(サンク)。1972年誕生。現代的なコンパクトカーのデザインとして、大傑作です。二代目と合わせて900万台製造され、その後クリオに名を変えて三代で1200万台つくられ、合わせると2000万台を越えています。ちなみにクリオは商標の関係で日本ではルーテシアとなっています。「ルーテシア」も今では日本で定着したともいえるようですが、やはり本当は「クリオ」なのだという気もします。
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ルノーが発表している歴代ルーテシアのスケッチ。こうして見ると意外なことに、歴代モデルに連続性がそれなりにあるようです。
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ルーテシアのクレイモデルを製作しているところ。後方はおそらくデジールのようで、両車はたしかに平行してつくられていたわけです。右から2番目の人物はヴァン・デン・アッカー氏のように見えます。フランスでは、モデラーの技法が日本とは少し違うという話も聞きますが、そういうこともあって、日本車とは違う感触のデザインができてくるのかと想像します。
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今回のルーテシアは、ルノーとしてはルネッサンスというべき、新世代デザインの導入です。今までのルノーを気に入っていた場合など、受け入れに慣れが必要なこともあるかもしれません。好みはともかく、存在感の強いヴァン・デン・アッカー氏の働きもあるのか、デザイナーズカーとさえいえそうな、こだわったデザインに思いました。また、官能的だと強調されていますが、イタリア車みたいだという声も聞かれました。「ブルー ドゥ フランス」あたりの色だと、また印象も違うかとも思います。街中でどのように見えるのか、興味ぶかいところです。
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追記。実は上記のコラボレーションの期間中に、偶然ピエール・エルメ・パリ青山店の前を通りました。特別メニュー「LUTECIA」を注文した人に、先着50名に新型ルーテシアのミニカーがプレゼントされると告知されていましたが、これはすぐに完売になり、大人気だったそうです。店内にはその赤いメタリックのミニカーなど、ルーテシア関連の展示がされていましたが、大変しゃれたもので、あたかもフェラーリのような後光のさしたクルマに見えた次第です。ルーテシアは、フランス本国市場では量販車種なので、こういった企画をしたとしても、効力があるのかわかりませんが、日本市場においては有効なのでしょう。ピエール・エルメにとっても、効果があるようです。新型ルーテシアは、そもそもこういった企画が合うような、魅了するデザインとして仕立てられているようです。
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関連映像がありました。エルメ vs ヴァン・デン・アッカー、自動車とスイーツの融合が見ものです。
[ http://blog.renault.com/en/2012/10/08/a-clio-made-out-of-chocolate-yes-we-can-with-patissier-pierre-herme/ ]
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(レポート・写真:武田 隆)

リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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