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アコード・ハイブリッドの発表会


ホンダは、6月20日に新型の「アコード・ハイブリッド」と「同プラグイン・ハイブリッド」を発表し、翌21日に発売しました。新型アコードは、ホンダのハイブリッドとして新技術の導入となる、2モーター式の「i-MMD」を採用したことと、国内で手薄になっていたセダン市場に対する強化が注目点です。「ハイブリッド」は、全長5mに近いサイズでありながら、30.0km/リッター(JC08モード)の燃費を実現しています。


(6月20日 東京・恵比寿ガーデンプレイス)

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発表会場は恵比寿ガーデンプレイスでしたが、2008年のリーマンショックのあと、経費のかからない青山本社での発表会が続き、今回リーマンショック後初めて外の会場での開催とのことでした。リーマンショック後にホンダはF1撤退も強いられましたが、先頃、復帰が発表されたばかりです。それと合わせて、ホンダの復活を印象づける発表イベントとなったようです。
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当日は、最初に室内でプレゼンテーションを行なった後、ガーデンプレイスの中庭スペースで、新型車のヴェールがはがされる段取りでした。発表会のあとは一般向けの展示イベントが週末まで続いたようです。
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ヴェールをはがされた新型アコード・ハイブリッド。中央が伊東孝紳社長。今回は、ホンダとしても気合いの入った自信作であることが、プレゼンテーションでも伝わってきました。バックのスクリーンには「超アコード」というコピーが映っています。ほかに、「セダン愛」というのもありましたが、リーマンショック後の近年、軽自動車の「N」シリーズが大成功していながら、セダンはとくにホンダは日本市場において危機的状況にあります。日本市場では、ハイブリッドが上級セダン・ユーザーにアピールするということで、今回アコードはハイブリッド専用車種となっているようです。
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ところで「超アコード」のコピーは、ハイブリッドの超越した性能からきているというよりは、むしろ、アコードという名前を強調するものだということです。近年は、日本市場では「北米向けアコード」を「インスパイア」の名で売っており、「国内アコード」は欧州と共用のひとまわり小さいボディでしたが、今回、北米向けと統合され、「アコード」に一本化されました。そこで、従来より、ワンクラス超えたアコードになっていることを伝えたいという意味合いがあるそうです。
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ホンダは今後、今回の「i-MMD」を含めて、合計3種の次世代ハイブリッド技術を導入する予定で、「新型アコード」は、その先陣を切るものです。そのためにプロモーションにいっそう力が入っているようです。会場に設営された「広告塔」(?)には、その一連の次世代ハイブリッド技術「EARTH DREAMS TECHNOLOGY」にまつわる広告コピーが入っています。右側の写真はモーター(発電機)です。これではまるで新型人口衛星の発表会のようだと思いましたが、それはどうも意図的にそうしているらしいことが、あとでわかりました。広告コピーの中には、「重力に挑むハイブリッド。」というものまでありました。
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ここにあるほかに「圧倒的な技術で」というコピーもありますが、それらを見ていくと、ホンダの言いたいことがわかってきます。広報資料には「力強いコピー」との説明がありました。それにしても、「青い地球」の画像はいかにもホンダ好み、というイメージがちょっとあります。一時期ホンダのF1の車体がそのようなカラーリングだったこともありました。
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しかし、その後別の機会に、新型アコードのTVCMを見て、この広告のナゾがわかった気がしました。少し長いですが説明します。CMには、上級セダンであることを伝える「セダン愛。登場」篇と、「EARTH DREAMS TECHNOLOGY」をアピールする「未来を変えろ。ACCORD」篇がありますが、後者の方を見ると、ハイブリッドのモーターやバッテリー、エンジン部品やギアなどのパーツが宙を浮くように映り、最後に上の看板のような地球の映像が出てきます。広報資料を見てみると、「まるで宇宙船のように次々と現れるACCORDハイブリッドの部品。」とちゃんと書いてありました。しかしおもしろいのは、そのBGMにヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」を使っていることです。そこでピンとくる人も多いと思いますが、その音楽と映像で連想されるのは映画「2001年宇宙の旅」です。早速映画のその部分を見直してみたところ、各種の宇宙船が、青い地球をバックに浮遊している映像で、上の写真のモーターそっくりの円盤が2つ連結した、まさに「i-MMD」そのもののような形のものも出てきていました。キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」は、未来世界の電脳とハイテクの超最先端を描いた野心作で、仮にもしそのイメージを重ねているのだとしたら、この広告は、冴えている、というか、勢いがあるという感じがします。
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「EARTH DREAMS TECHNOLOGY」という名称も、これもホンダ好みという感じですが、よく考えると相当な大判振る舞いの名前です。伊東社長のプレゼンテーションでは、「ホンダにとっても、また、自動車の未来にとっても、新しい時代の幕開けになると確信している」、という言葉がありました。
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焦点のハイブリッド部分については後で見るとして、先に外観デザインから見てみます。ここでも、「地球」がバックに映っていますが、それはともかく、外観でハイブリッドを感じさせるのは、グリルまわりのデザインです。このフロントマスク形状は、燃料電池車のFCXクラリティやオデッセイと共通する流れであるようです。ボディサイドのプレスラインも今回の新型のデザインで目立つところで、フロントドア付近などはかなり深い彫り込みです。
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このプレスラインを横から見ると、鋭くひかれた線が、リアドアハンドルから後ろから、なだらかになっているのが目につきました。この位置にこの角度で線が入るのは、旧型アコード(日米仕様とも)も同じですが、今回少しひねりが入り、最終的にこのデザイン処理になったようです。アコードは、1976年初登場以来、もうすぐ40年で、今や全長は4900mmを超える堂々たる体格です。ここ20年あまりトヨタ・カムリとともにアメリカで最も売れている乗用車の地位にあり、その昔の巨大なアメリカ製セダンの肩代わりをしたクルマです。マツダ・アテンザとか、スバル・レガシィなども近しい存在の正統的セダンです。
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全体の印象は、スマートでありながら、(北米で)広く支持されるファミリーセダンらしくコンサバなところを守っているようですが、グリルだけは少し精悍です。これはハイブリッド専用のいわば特別な顔であり、日本ではすべてこの顔です。北米にあるノンハイブリッドの主流モデルのグリルのほうがスマートで、アコードらしいという印象もありますが、ホンダの方によると、今回披露されたこの顔は、賛否両論だそうです。電気モーター使用の次世代自動車は、ラジエターグリルの存在をなるべく消したほうが、「エコ」っぽいというか次世代車らしく見られる、という話を聞いたことがありますが、アコード・ハイブリッドの場合、走りの力強さや、プレミアム性を強調するために、こういうグリルになっているかなとも思います。実は、ハイブリッドの制御の仕方も、エンジンの回転する力強さを意図的に引き出す方向にしているという話も、後で聞きました。
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HYBRIDのロゴです。これは「プラグイン・ハイブリッド」のもので、充電プラグの蓋の部分です。左端のデザインがプラグの形状になっているのが、通常の「ハイブリッド」と違います。
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これは「プラグイン・ハイブリッド」ですが、外観は通常の「ハイブリッド」と基本的に同じで、ホイールが違います。このホイールは、鍛造アルミホイールに、樹脂製のカバーを付けるという、一見"不条理"なホイールです。軽量化と空力を極めた結果であるようです。
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「ハイブリッド」の内装です。ダッシュボードのパネルは、ブラックの木目調で、少しシックな感じをねらっています。
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こちらは「プラグイン・ハイブリッド」。白が基調で、ダッシュボードパネルは、メタル調の加飾です。「プラグイン」は、さしあたってまずは法人企業や官公庁などへのリース販売のみになります。
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これは通常のハイブリッド・モデルです。4気筒エンジンが横置きされ、その横にモーター駆動系機関が直列に置かれ、その上に載るパワーコントロールユニット(PCU)が外から見えています。この構成は、横置きFFベースのハイブリッド車の場合、だいたい皆同じであるようです。
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参考として、プラグイン・ハイブリッドの実証実験に供されている車両です。充電関連装備を除けば、ボンネット内の機関は、通常のハイブリッドとほぼ同じです。この車両の場合、グリルが北米のノンハイブリッドのモデルと同じ顔になっています。
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リチウムイオンバッテリーです。これは「プラグイン」のもので、さすがに大容量なので大きめで、2段重ねの構成です。ホンダは、GSユアサと合弁のブルーエナジー社で電池を開発・生産しています。一般的に電池は、リチウムイオンという方式である限り、内燃エンジンを消滅させるほどの高性能化はできないという見方があるようですが、ハイブリッドのシステム全体としては、高効率化、高性能化が目覚ましく進んでおり、今回の「EARTH FREAMS TECHNOLOGY」のハイブリッド技術もまさにそれに相当するわけです。ブルーエナジー社がリチウムイオン電池の量産を開始したのは2011年2月のことで、「CR-Z」や「シビック・ハイブリッド」にも既に使われていましたが、電池そのものも、今回性能を進化させているとのことです。
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こちらは、通常の「ハイブリッド」の電池です。これもリチウムイオンですが、「プラグイン」の電池とは中に並ぶセルも違うもので、特性が異なり、容量の小さいこの通常モデル用のほうが、電気の出し入れが素早くできるようです。
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発表会での伊東社長の説明では「30km/リッターで、ゆとりのあるサイズのセダンながら、軽自動車に匹敵する圧倒的な燃費性能は、世界ナンバーワンのハイブリッド技術であると自負しています」とのことでした。「i-MMD」は、モーター(発電機)が2つあります。従来のシングルモーターだったホンダの「IMA」は、効率で若干劣っていました。今回晴れて2モーターになり、しかも、現状では最高といえる効率に達しているらしいです。
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ホンダにとってハイブリッドの本格普及の端緒だった2009年登場の2代目インサイトで、広告宣伝に「スヌーピー」を使っていましたが、同時期に「スーパーマン」をフィーチャーしたライバルに対して、ゴジラ対モスラのような勝負にはなっていない感じがしたのを覚えています。今回は「キューブリック」だとすると(?)、さしずめキングギドラでしょうか。それはともかくとして、この「i-MMD」は、いわゆる「シリーズ式」といわれるハイブリッド方式にどちらかというと近く、エンジンは通常は駆動力には使っておらず、もっぱら発電機として使います。70km/h以上の高速巡航時のみ、クラッチがつながって駆動するようになります。しかしフル加速時には、やはりモーターのトルクのみを使います。
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「i-MMD」のシステムは、上図のように大まかに分けると、1=「発進時などにはバッテリーの電力によるモーター走行」。2=「低速走行や加速時などに、エンジンで発電した電気で、駆動用モーターを駆動」。3=「高速巡航時に、エンジン動力を直接駆動に用いる」、という構成です。実際はもう少しほかにもパターンがあるようです。エンジンを発電のみに使うことが多く、よりEVに近い感じです。トヨタのプリウスよりは、三菱のアウトランダーや、GMのボルトと、近いやり方と見られています。
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「i-MMD」の実物です。エンジンのすぐ右側、クランクシャフトと同軸のギア機構が減速装置で、変速機は持ちません。その右側に薄い板が何枚も重なったようなものがクラッチです。クラッチの上方に「走行用モーター」の断面が見えており、右端が「発電用モーター」です。先の図版にもありましたが、「i-MMD」は、メカニカルな機構がシンプルであることも特徴です。駆動系装置のシンプル化は、あまり目立たないことですが、ホンダが伝統的にこだわってきたことと思われます。かつてホンダがFF方式をいち早く採用したこともそのひとつと思います。
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これは広報写真です。カタログにも使われていますが、モーターをはじめ、こだわって美しく撮っています。後光もさしています。
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これはホンダの従来のハイブリッド「IMA」で、2代目インサイトのハイブリッド機構です。モーターは通常のフライホイールの位置に1個入っており、あとの変速機構は通常のエンジン車と同様です。これだと非常にシンプルですが、モーターはほぼエンジンのアシストの働きしかできませんでした。
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上の2枚は、上がトヨタのプリウス、下がGMのシボレー・ボルトのモーター駆動系部分です。ホンダの「i-MMD」も含めて、3車は横置き4気筒エンジン+2モーターですが、そのシステムの組み合せはそれぞれ違います。ガソリン・エンジン自動車の場合、100年の間に、まず当初「パナール方式」と呼ぶ今日の「FR」方式が定着し、その後1960年代に入る頃にイギリスのミニの「イシゴニス式」に続けて、フィアットが「ジアコーザ式」という「横置きエンジンFF」を実用化して、結局「ジアコーザ式」が世界的に普及しました。ハイブリッドの場合、組み合せ要素が複雑なので、いろいろな方式があると思いますが、ただ2モーターというのは、ひとつのゴール点なのかもしれません。むしろエンジンを、3気筒や2気筒に削って行ってもよさそうな気もします。
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プレゼン後の質疑応答の中で、伊東社長は、次世代車技術の進化について、「ハイブリッドの延長線上にはやはり燃料電池車があると思うが、数十年間はハイブリッドが主流になるはずで、その実際の市場の中での走行状態で、時を経るにしたがって、モーターの現れる頻度が高くなるのは間違いない」、と言っていました。ある意味あたりまえの見方ですが、その過程としての実物を出してきた、ということで、言葉の重みがありました。
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当日、会場に飾られていた写真パネル。モーターを撮影した「作品」です。今まで、ガソリンエンジンは崇め奉られる存在で、シリンダーのようなエンジン部品がインテリアの置物になるなどしてきましたが、モーターも今後、そのような存在になるのでしょうか。
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今回のプレゼンテーションで、開発リーダーの二宮 恒治氏は、「とにかく突き抜けること」、「目指したのは世界最高」が我々の思いで、何度も試行錯誤しながら目標を変えなかった、と言っていました。「今回の開発によってミドルクラスセダンの環境性能において、トップランナーになりました。このアコード・ハイブリッドをきっかけに今後このクラスにおいても燃費競争が激化してくると思いますが、その競争により、ホンダだけではない、全世界のクルマの環境性能が底上げされ、地球環境への貢献につながること、つまり、「i-MMD」が「CVCC」や「V-Tec」に続く革新的な価値のあるものに育つと信じています」とのことでした。
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伊東社長は、質疑応答の中で、ライバルメーカーとのシェア争いを気にするよりは、自動車の進化における意味付けを我々としては考えている、と言っていました。「これからは間違いなくもっともっとCO2削減、燃費性能向上を求められてくると思います。たまたま最近シェールガス云々でちょっとゆるんでいる感じもあるが、30〜50年のオーダーで見たら、石油エネルギーがあったとしても、CO2は増大するし、価格が高騰するのは間違いない」。
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「燃費を大きく向上させ、なおかつクルマのおもしろさを楽しんでもらうという、新しいクルマの進化の世界は、非常に厳しい技術競争で、商品競争になると思っています。これは、トヨタさんであろうと、どちらの会社であろうと、多分想像するに、それぞれの会社の中での開発の、中核を占めるテーマだろうと思います。そんななかで、今回一生懸命、小型車、中型車、大型車に、それぞれ適したハイブリッドシステムを、かなり集中して勉強して、商品化につなげようとしています。これは当面の我が社にとって大きなアドバンテージになるとだろうと自信をもっています」とのことです。
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新型アコード・ハイブリッドは、おそらくはカムリ(やはり日本ではハイブリッドのみ)に近い販売規模になりそうかとも思われ、アコード単体での「i-MMD」の普及は、少なくとも日本ではある程度まだ限定的です。しかし、365〜390万円という価格は極端に高いものではなく、クルマとしての仕上がりも力が入っているようですから、「超アコード」は、「EARTH DREAMS」の第一弾として、「セダン愛」を十分に実践できるかもしれません。
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(レポート・写真:武田 隆)
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リポーターについて

武田 隆(たけだ・たかし)

1966年東京生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科中退。出版社アルバイトなどを経て、自動車を主体にしたフリーライターとして活動。モンテカルロラリーなどの国内外モータースポーツを多く取材し、「自動車アーカイヴ・シリーズ」(二玄社)の「80年代フランス車篇」などの本文執筆も担当した。現在は世界のクルマの文明史、技術史、デザイン史を主要なテーマにしている。著書に『水平対向エンジン車の系譜』 『世界と日本のFF車の歴史』『フォルクスワーゲン ゴルフ そのルーツと変遷』『シトロエンの一世紀 革新性の追求』(いずれもグランプリ出版)がある。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。

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